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TOPIC · COMPANIES

農業機械メーカー比較(クボタ・ヤンマー HD・井関農機)

日本の農業機械業界はクボタ・ヤンマー HD・井関農機の 3 社が大半を占める寡占構造ですが、収益規模・事業構造・海外展開の度合いが大きく異なります。クボタ FY2025 連結売上は 3 兆 189 億円(海外売上比率 70% 超)で農機・建機・水関連の 3 セグメントを持つグローバル企業、井関農機は連結 1,858 億円の農機専業で国内 JA 流通との結びつきが強い、ヤンマー HD は未上場ながらグループ全体ではクボタに次ぐ規模と推定される複合事業体です。本ページでは 3 社の業績比較、戦略の違い、ヤンマーの位置づけ(未上場のため定性中心)、海外勢(ジョンディア・CNH)との競争構造を整理します。日本市場の正確なシェア値は公的統計に存在しないため、本ページは定性的な比較と各社の決算開示・中期計画の整理を中心としています。

主要論点

論点 1:クボタ — 国内首位かつグローバル展開の総合機械メーカー
ポジティブ
クボタ(東証プライム 6326、本社大阪)は FY2025(2025 年 12 月期)の連結売上が 3 兆 189 億円(前年比 +0.1%)、営業利益 2,655 億円(同 -15.9%)、純利益 2,168 億円でした。海外売上比率は 70% 超で、北米・アジアを中心とした事業展開が特徴です。事業セグメントは農機・建機・水関連の 3 つで、農機単独でも世界トップクラスの規模を有します。北米では 1969 年に小型トラクターで参入後、住宅・芝刈り・果樹栽培向けに小型機を提案して 40% 超のシェアを獲得した歴史があり、現在も北米市場が海外売上の中核を占めます。アジアでは 2008 年にインドに参入後、2021 年にインド大手エスコーツ社を約 1,400 億円で子会社化し、2030 年に両社合計でシェア 25%(販売台数ベース)を目標としています。中期経営計画 2030(mp137)では次世代農機・スマート農業を中核戦略に据えており、KSAS(営農管理 SaaS)の展開、自動運転 Lv2 機の量産、自動運転技術企業の M&A(カナダ・アグジャンクション買収)など、機械販売から「機械 + データサービス」への転換を進めています。FY2025 の利益減益は為替・コスト影響で、本業のトレンドが変わったわけではないと整理できます。
論点 2:井関農機 — 農機専業、黒字回復と中計プロジェクト Z
コンペティティブ
井関農機(東証プライム 6310、本社愛媛)は FY2025(2025 年 12 月期)の連結売上が 1,858 億円(前年比 +10.3%)、営業利益 42 億円(同 +120%)、純利益 28 億円と、前期赤字(純利益 -30 億円)から黒字回復しました。営業利益率は前年の 1.1% から 2.3% まで改善し、自己資本比率は 35.2%(前年 32.8%)と財務体質も改善傾向にあります。3 社のなかでは農機専業色が最も強く、田植機・コンバインに強みを持ち、国内 JA 流通との結びつきが伝統的に強い構造です。中期経営計画「プロジェクト Z」(2024 年策定)では構造改革と収益性改善を推進中で、FY2026 は売上 1,800 億円(前年比 -3.1%)と売上減少を見込みつつも営業利益は 60 億円(同 +42.0%)を目標とし、量より質の改善を継続する計画です。海外展開は 2018 年にインド第 2 位の TAFE 社と技術提携を締結したほか、欧州・北米・中国・ASEAN を 4 大市場と位置付けています。グループ会社では英国 ISEKI UK & Ireland Limited を新たに連結対象に加え、欧州拠点の整備を進めています。
論点 3:ヤンマー HD — 未上場、複合事業でアジア展開に強み
中長期
ヤンマー HD(持株会社制、本社大阪)は未上場のため詳細業績は非開示ですが、グループ全体ではクボタに次ぐ規模と推定されます。設立は 2013 年(持株会社制移行)、創業は 1912 年で、エンジン(ディーゼル、汎用・産業用)、農機、建機、小型船舶(マリン)の複合事業を展開しています。資本金 9,000 万円、従業員数 26,671 名(2025 年 4 月時点)と、規模面ではクボタに匹敵します。農機事業単独の業績は非開示ですが、業界俯瞰からは国内・アジアでの存在感が大きく、2005 年からインド第 3 位インターナショナル・トラクターズ社(ITL)に出資を継続し、ベトナム市場でも一定のシェアを持つと推定されます。スマート農業では「YT5113A ロボトラクター」(Lv2、約 780 万円)を投入済みで、農業 SaaS「スマートアシスト」も展開しています。NTT 東日本との 5G 遠隔監視実証など、ICT 連携でも先行的な取り組みが見られます。未上場のため敵対的買収リスクが低く、長期的な技術投資・海外 M&A を進めやすい資本構造を持つ点が、上場 2 社との大きな違いです。
論点 4:海外勢の位置づけ — ジョンディア・CNH との競争構造
コンペティティブ
世界市場ではジョンディア(ディア・アンド・カンパニー、米)が首位、CNH(伊・英、ケース IH/ニューホランド/ステアー等 10 ブランド展開)が世界 2 位という構造で、両社とも大型機・自動化技術で先行しています。ジョンディアは AutoTrac ベースの自動運転 Lv2 を欧米で先行展開し、CNH は欧州大型機市場で優位な地位を持ちます。日本勢(クボタ・ヤンマー・井関)は中小型トラクターと水田用機械で差別化しており、欧州大型機市場での直接競合は限定的です。ただし北米では小型トラクター(クボタ)と中大型トラクター(ジョンディア)でセグメントが棲み分けされ、井関・ヤンマーは新興国(インド・ASEAN)でマヒンドラ(インド最大手)等と価格競争を展開しています。中国系メーカーはアジア新興国で価格競争を仕掛けていますが、日本本土への影響は限定的です。日本市場の公的なシェア統計は存在しないものの、上場 2 社の決算と未上場ヤンマーの規模感から、3 社で大半を占める寡占構造であることは整理可能です。

主な動きのタイムライン

  1. 1890
    クボタ創業(鋳物製造業)
    クボタ
  2. 1912
    ヤンマー創業
    ヤンマー
  3. 1926
    井関農機創業(脱穀機製造)
    井関農機
  4. 1969
    クボタ北米トラクター市場参入
    クボタ
  5. 1980年代
    クボタ北米小型トラクターシェア 40% 獲得
    クボタ
  6. 2005
    ヤンマー インド ITL に出資開始
    ヤンマー
  7. 2013
    ヤンマー HD(持株会社制)に移行
    ヤンマー
  8. 2018
    井関農機 インド TAFE 社と技術提携
    井関農機
  9. 2021
    クボタ インドエスコーツ買収(約 1,400 億円)
    クボタ
  10. 2024
    井関農機 中期経営計画「プロジェクト Z」策定
    井関農機
  11. 2025-12
    クボタ FY2025 連結 3 兆 189 億円、井関 1,858 億円(+10.3%、黒字回復)
    業界

主要プレイヤー

クボタ
国内 3 強
国内首位・世界トップクラス
FY2025 連結 3 兆 189 億円、海外売上比率 70% 超。農機・建機・水関連の 3 セグメント、北米・アジアでグローバル展開。中計 2030 でスマート農業を中核戦略に。
ヤンマー HD
国内 3 強
国内 2 番手(推定)・複合事業
未上場、グループ売上はクボタに次ぐ規模と推定。エンジン・農機・建機・マリンの複合事業、アジア展開(特にインド・ベトナム)に強み。SaaS「スマートアシスト」展開。
井関農機
国内 3 強
国内 3 番手・農機専業
FY2025 連結 1,858 億円(+10.3%)、営業利益 +120% で黒字回復。中計「プロジェクト Z」で収益性改善推進。田植機・コンバインに強み、国内 JA 流通との結びつき強い。
やまびこ
小型機専業
小型機国内首位
東証プライム 6250。刈払機・チェーンソー(KIORITZ ブランド)国内首位、農機の総合メーカーとは別カテゴリで小型機特化。
丸山製作所
小型機専業
防除機専業
東証プライム 7834。防除機(噴霧器)専業で、農薬散布・果樹園向けの専門メーカー。総合 3 社が補完するニッチ領域。
ホンダ
小型機専業
汎用エンジン・耕運機
東証プライム 7267。パワープロダクツ事業として耕運機・刈払機を展開。総合農機ではなく汎用機械の延長線上。
ジョンディア(米)
海外メーカー
世界首位
大型機・自動化技術で世界最大手。AutoTrac ベースの自動運転 Lv2 を欧米で先行展開。日本市場では大型機の輸入販売が中心で日本勢との直接競合は限定的。
CNH(伊・英)
海外メーカー
世界 2 位
ケース IH・ニューホランド・ステアー等 10 ブランド展開。世界 160 カ国 4,000 拠点。欧州大型機市場で優位。
マヒンドラ(インド)
新興国メーカー
インド最大手
インド農機市場トップ。クボタのインド子会社エスコーツが 2030 年に対抗してシェア 25% を目指す競合関係。

中期見通し

【近未来 1-2 年】クボタ FY2026 通期予想は連結売上 3 兆 1,500 億円(前年比 +4.3%)、営業利益 3,000 億円(同 +13.0%)、純利益 2,100 億円(同 +12.5%)と増収増益見通し。為替・コスト影響の一巡で本業の収益力が改めて反映される局面と整理できる。井関農機 FY2026 は売上 1,800 億円(同 -3.1%)と売上減少見込みだが営業利益は 60 億円(同 +42.0%)と質的改善を継続。ヤンマー HD は未上場のため数値見通しは非開示だが、アジア新興国(特にインド)でのシェア拡大が中長期戦略の中核と推定される。

【中長期 3-5 年】業界共通の方向性は「機械 + データサービス」「電動化対応」「自動運転対応」へのシフト。クボタは中計 2030 で次世代農機・スマート農業を中核戦略に据え、KSAS(営農管理 SaaS)の展開と Lv2-3 自動運転機の量産を進める。井関は中計「プロジェクト Z」で収益性改善を最優先課題に据えつつ、欧州・北米・中国・ASEAN の 4 大市場で展開を続ける。ヤンマーは未上場の利点を活かした長期投資(電動化・新興国 M&A)が想定される。3 社の戦略の差異は今後より顕著になり、クボタ=多角化グローバル、井関=専業国内重点・収益性改善、ヤンマー=複合アジア重点・長期技術投資、という棲み分けが定着する見通し。

【関連業界への波及】農機メーカーの戦略は建設機械・エンジン事業との相互補完が大きい。クボタは小型建機(ミニショベル)で世界首位を持ち、北米で農機・建機・水関連インフラの 3 事業を統合展開している。ヤンマーは産業用エンジン・マリン事業でグローバル展開しており、農機との技術シナジーが大きい。井関は農機専業色が強い分、IT・通信業界との連携(NTT・KDDI 等との実証)が今後のキーテーマとなる。SaaS 型営農管理(クボタ KSAS、ヤンマー スマートアシスト等)のメーカー横断データ連携が進むかどうかは、農業 DX 全体の成否を左右する論点。

データ出典
出典: クボタ FY2025 決算短信(2026/2 公表)/ 井関農機 FY2025 決算短信(2026/2 公表)/ クボタ・井関 中期経営計画 / ヤンマー会社概要(公開情報)/ 各社プレスリリース / EDINET 有価証券報告書
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