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印刷会社の事業多角化|印刷技術を半導体・電池へ転用する構造【2026年版】

印刷会社の事業多角化とは、紙への印刷で培った技術を、半導体・ディスプレイ・電池・パッケージといった別の分野へ広げる動きです。背景には、印刷市場が長期的に縮小するなかで、版づくりの微細加工やインキの精密な塗工といった技術が、印刷以外の成長分野に応用できることがあります。とくに大日本印刷とTOPPANホールディングスの大手2社は、半導体のフォトマスクや電池の外装材などへ多角化を進めています。なぜ脱・印刷依存へ向かうのか、どの分野へ、どう技術を転用しているのかを整理します。

印刷会社はなぜ脱・印刷依存を進めるのか

印刷市場の構造的な縮小

第一の理由は、印刷市場の長期的な縮小です。製造品出荷額等でみた印刷市場は2023年に5兆934億円で、1991年のピークから縮小が続いています。書籍・雑誌の出版印刷や、チラシ・カタログなどの商業印刷は、電子化やインターネットの普及で需要が減り続けており、印刷だけに依存していては成長を描きにくくなっています。

印刷で培った技術が他分野に応用できる

第二の理由は、印刷技術の応用範囲の広さです。印刷は、版を使って微細な模様を正確に転写し、インキを薄く均一に塗る産業です。この「微細なパターンを作る技術」と「精密に塗る・貼り合わせる技術」は、半導体の回路パターンや、電池・ディスプレイの薄い膜づくりにそのまま生かせます。長年の印刷で蓄えた技術資産が、別の分野への入り口になっています。

成長分野で高い収益が見込める

第三の理由は、転用先の分野の成長性と収益性です。半導体や電池、ディスプレイ部材といった分野は、印刷市場のように縮小しておらず、付加価値も高い領域です。大手2社では、これらの非印刷事業が売上規模に比べて高い利益を生み、印刷の縮小を補う収益の柱になっています。ただし各社の連結売上高には非印刷事業が含まれるため、印刷中核のセグメントとは規模が異なります。

印刷の技術は、どの分野へ転用されているのか

微細加工の技術 — 半導体へ

印刷の中核には、版に微細な模様を作り、それを正確に転写するフォトリソグラフィ(光を使って微細なパターンを写し取る技術)があります。この微細加工の技術が、半導体の回路の原版づくりに転用されています。大日本印刷とTOPPANグループは、フォトマスク(半導体回路の原版となるガラス板)を手がけ、TOPPANは半導体チップを載せる半導体パッケージ基板(FC-BGA)にも展開しています。印刷会社は半導体チップそのものを作るわけではありませんが、回路の原版や、チップを載せる基板といった要となる部材を担っており、半導体は印刷会社の多角化のなかでもとくに成長が期待される分野です。

精密な塗工の技術 — ディスプレイ・電池へ

インキを薄く均一に塗る精密塗工やコーティングの技術は、ディスプレイや電池の部材に生かされています。DNPは、スマートフォンやテレビの画面に貼る反射防止フィルム・光学フィルムや、リチウムイオン電池の外装材(バッテリーパウチ)を手がけ、同社の統合報告書ではこれらで世界的に高いシェアを持つとしています。薄い膜を均一に作り、多層を貼り合わせる技術が、ディスプレイや電池の品質を左右する部材づくりに直結しています。

パッケージ・情報サービスへの広がり

印刷に近い領域でも、多角化は進んでいます。パッケージ(軟包装・紙器)や、中身を保護する機能性フィルムは、印刷・ラミネート・バリア加工の技術を生かした成長領域です。また、紙の情報を扱ってきた強みを生かし、BPO(業務の外部受託)や紙の電子化・DXサービス、ICカードなどの情報・セキュリティ分野へも広がっています。転用先の分野と、活かしている印刷の技術、代表的な製品の対応は、次の表のとおりです。

印刷技術の転用先と代表的な製品

印刷で培った技術が、どの分野のどんな製品に転用されているかの整理(金額ではなく技術と用途の対応)
半導体
活かした印刷の技術
微細なパターンを形成する露光技術(製版で培ったフォトリソグラフィの応用)
代表的な製品・用途
フォトマスク(半導体回路の原版)、半導体パッケージ基板(FC-BGA)
ディスプレイ
活かした印刷の技術
精密な塗工・薄膜形成(インキを均一に塗る技術の応用)
代表的な製品・用途
反射防止フィルム・光学フィルム、有機EL製造用のメタルマスク(蒸着に使う精密な金属製の型)
エネルギー・電池
活かした印刷の技術
精密な塗工とラミネート(多層を貼り合わせる加工)
代表的な製品・用途
リチウムイオン電池の外装材(バッテリーパウチ)
パッケージ・生活産業
活かした印刷の技術
印刷・ラミネート・バリア加工
代表的な製品・用途
軟包装、機能性フィルム、中身を保護する透明バリアフィルム
情報・サービス
活かした印刷の技術
データ処理とセキュリティ印刷
代表的な製品・用途
BPO(業務の外部受託)、紙の電子化・DXサービス、ICカード
読み解き

印刷会社の多角化は、ばらばらに別事業へ手を広げているのではなく、「微細なパターンを作る」「精密に塗る・貼り合わせる」という印刷の中核技術を軸に、隣接する分野へ展開しているのが特徴です。半導体・ディスプレイ・電池・パッケージ・情報サービスは、いずれも印刷の技術が生きる領域で、紙の印刷で培った強みを別の市場で再利用する構造になっています。

大手2社と中堅・中小では、多角化の姿がどう違うのか

大手2社 — 技術転用で成長分野へ

大日本印刷とTOPPANホールディングスの大手2社は、半導体・ディスプレイ・電池といった成長分野へ本格的に踏み込む多角化を進めています。研究開発や設備投資の余力があり、フォトマスクや半導体パッケージ基板、電池外装材などで、印刷以外の事業が連結業績の柱に育っています。両社の事業は、もはや「印刷会社」というより「印刷を出自とする総合メーカー」に近い姿になっています。

中堅・専業 — 印刷の周辺へ

共同印刷や光村印刷などの中堅・専業の印刷会社は、大手2社ほどの多角化の余力はありません。そのため、印刷に近い周辺領域へ広げる形が中心です。出版印刷を軸とする会社が情報セキュリティ(ICカードなど)や軟包装・生活資材を組み合わせる、商業印刷の会社がデジタルサービスを加えるなど、強みのある分野の隣へ事業を広げています。

地域の中小 — 業態変革という課題

地域の商業印刷を担う中小印刷業にとっては、多角化というより業態変革(印刷物を請け負うだけでなく、企画・デザインからデータ活用までを一括して担う事業への転換)が課題です。全日本印刷工業組合連合会は、価格競争に陥りやすい印刷の請負から、付加価値型のサービスへ移ることを長く呼びかけてきました。設備や人材の制約のなかで、どこまで転換できるかが生き残りを左右します。

主要論点

なぜ印刷会社は印刷以外の事業へ広げるのか?

最大の理由は、印刷市場の構造的な縮小です。製造品出荷額等でみた印刷市場は2023年に5兆934億円で、1991年のピークから縮小が続いています。電子化で出版印刷や商業印刷の需要が減るなかで、印刷だけに依存していては成長を描きにくくなっています。

もう一つの理由は、印刷技術の応用範囲の広さです。版に微細な模様を作る技術や、インキを精密に塗る技術は、半導体・ディスプレイ・電池といった別分野の部材づくりに生かせます。縮小する市場から、技術を生かせる成長市場へ軸足を移すのが、印刷会社の多角化の本質です。

つまり多角化は、単なる事業の追加ではなく、蓄えた技術資産を成長分野で再利用する戦略だといえます。

なぜ印刷会社が半導体や電池に強いのか?

印刷と半導体・電池は一見かけ離れていますが、共通する技術があります。印刷は、版を使って微細な模様を正確に転写し、インキを薄く均一に塗る産業です。この「微細なパターンを作る技術(フォトリソグラフィ)」と「精密に塗る・貼り合わせる技術」が、半導体や電池の部材づくりにそのまま生かせます。

半導体では、回路の原版となるフォトマスクや、チップを載せる基板(FC-BGA)に、印刷の微細加工技術が応用されています。電池では、リチウムイオン電池の外装材(バッテリーパウチ)に、精密な塗工とラミネートの技術が生きています。ディスプレイの反射防止フィルムも同様です。

長年の印刷で蓄えた精密加工の技術が、成長分野の部材づくりという別の出口を持っていたことが、印刷会社の強みの源泉になっています。

多角化は中小の印刷会社にも可能なのか?

半導体や電池への本格的な多角化は、研究開発や設備投資に大きな資金が必要で、その余力を持つのは大手2社が中心です。中堅・専業の印刷会社は、情報セキュリティや包装、デジタルサービスといった印刷に近い周辺領域へ広げる形が現実的です。

地域の中小印刷業にとっては、多角化よりも業態変革が課題となります。印刷物を請け負うだけでなく、企画・デザインからデータ活用までを一括して担う事業へ転換できるかが問われます。全日本印刷工業組合連合会も、こうした転換を長く呼びかけてきました。

つまり、「大手は技術転用で成長分野へ、中堅・専業は周辺領域へ、中小は業態変革へ」と、規模に応じて多角化・転換の現実的な道筋が異なります。一律に半導体のような成長分野へ進めるわけではない点に注意が必要です。

中期見通し

近未来1-2年

大手2社の業績は、半導体や電池など非印刷分野の需要動向に左右される局面が続きます。半導体パッケージ基板や電池外装材といった成長分野への投資が進む一方、これらの市況の波が連結業績に影響します。中堅・専業は、印刷周辺のセキュリティ・包装・デジタルサービスでの取り込みを進めます。

中期3-5年

中期では、大手2社の連結に占める非印刷事業の比重がさらに高まるとみられます。印刷で培った技術を半導体・電池・機能性フィルムなどへ転用する流れが続き、印刷中核の事業は相対的に小さくなっていきます。印刷は、収益の柱というより技術や顧客基盤を支える源泉という位置づけに移っていきます。

長期

長期では、大手2社が「印刷を出自とする総合メーカー」としての性格をさらに強めると見込まれます。一方、中堅・専業や地域の中小は、それぞれの規模に応じた多角化・業態変革を進められるかで明暗が分かれます。印刷技術を別分野へ転用できる企業と、印刷の請負にとどまる企業との差が、業界の姿を決めていきます。

よくある質問

印刷会社はなぜ印刷以外の事業をするのですか?
印刷市場が長期的に縮小しているためです。製造品出荷額等でみた印刷市場は2023年に5兆934億円で、1991年のピークから縮小が続いています。一方、版づくりの微細加工やインキの精密な塗工といった印刷技術は、半導体・電池・ディスプレイなどの成長分野に応用できます。縮小する市場から、技術を生かせる成長市場へ軸足を移すのが多角化の狙いです。
大日本印刷やTOPPANは印刷以外に何を作っているのですか?
大手2社は、半導体回路の原版となるフォトマスク、半導体チップを載せる基板(FC-BGA、主にTOPPAN)、リチウムイオン電池の外装材(バッテリーパウチ、主にDNP)、ディスプレイ向けの反射防止フィルム・光学フィルムなどを手がけています。いずれも印刷で培った微細加工や精密塗工の技術を転用した製品で、パッケージや機能性フィルム、BPOなどの情報サービスも展開しています。
なぜ印刷会社が半導体に強いのですか?
印刷と半導体には、微細なパターンを正確に作るという共通の技術があるためです。印刷の版づくりで使うフォトリソグラフィ(光で微細な模様を写し取る技術)が、半導体の回路パターンづくりに応用できます。大日本印刷とTOPPANグループは、この微細加工技術を生かして、半導体回路の原版となるフォトマスクや、半導体チップを載せる基板を手がけています。
多角化が進むと、印刷市場の規模はどう捉えればよいですか?
大手2社の連結売上高には、半導体や電池などの非印刷事業が含まれるため、連結の数字を「印刷市場の規模」と捉えるのは誤りです。印刷市場の規模は、事業所ベースの製造品出荷額等(2023年に5兆934億円)でみるのが基本です。各社の連結と印刷中核セグメントの違いは、企業ベースでの別の見方になります。
中小の印刷会社も多角化できるのですか?
半導体や電池への本格的な多角化は資金負担が大きく、その余力を持つのは大手2社が中心です。中堅・専業は情報セキュリティや包装、デジタルサービスなど印刷に近い周辺領域へ、地域の中小は印刷の請負から企画・データ活用まで担う業態変革へ、という形が現実的です。規模に応じて、多角化・転換の道筋は異なります。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
    大日本印刷 統合報告書2025
  2. 2.
    TOPPAN(TOPPANホールディングス)エレクトロニクス事業のIR・製品情報
  3. 3.
    日本印刷産業連合会「印刷産業Annually Report Vol.5」/全日本印刷工業組合連合会 印刷産業ビジョン
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