影響①:労務費・利益率 — 価格転嫁と物価スライド条項が採算に効く構造
時間外労働上限規制と並行して、労務費・資材費の上昇分を発注者へ転嫁する契約実務(物価スライド条項の適用、追加請負金の交渉)が業界全体で浸透しています。労務費の増加が請負金額へ反映される度合いが高まるほど、受注時の採算を確保しやすくなる構造です。個社別の業績(完成工事総利益率や通期予想の修正)は会社ごとに受注構成や進行中工事の条件が異なるため、本ページでは個社の決算数値を保持せず、スーパーゼネコン各社の財務比較ページで確認します。
価格転嫁が採算へ効く経路は3つあります。第1に、物価スライド条項に基づく契約金額の見直しで、資材費・労務費の上昇分を発注者と分担します。第2に、工期の適正化により突貫工事に伴う原価増(応援人員・残業の増加)を抑えます。第3に、採算の見込めない案件を避ける選別受注が広がり、完成工事総利益率の下振れ要因が縮小します。これらが重なることで、労務費上昇局面でも採算を維持・改善しやすくなります。ただし効果の現れ方は会社ごとに差があり、業界一律の増益として断定はできません。
政府公表の 公共工事設計労務単価(令和8年3月適用)は全国全職種加重平均値が25,834円となり、平成25年度改定から14年連続の引き上げで初めて25,000円を超えました。なお国土交通省の公表どおり、金額(25,834円)は加重平均値、伸率(前年度比+4.5%)は単純平均値で算出された別系列です。労務単価の構造的な上昇が、人手不足の深刻度を反映しています。
(1)労働時間規制下での労務単価上昇(公共工事設計労務単価14年連続上昇)を前提とした発注者交渉力の強化、(2)国交省・厚労省の適正工期確保の要請と建設業法等改正法(令和6年法律第49号、価格転嫁・適正工期の記載義務が令和6年12月13日施行)による発注者側の責任明確化、(3)資材費(鉄鋼・セメント)の高止まりによる物価スライド対応の常態化、の3要因。中長期では、労務費の継続的上昇が業界全体の交渉力を底上げし、採算重視の受注スタンスが定着する構造が見込まれます。