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TOPIC DETAIL · REGULATION & FIDUCIARY DUTY

証券業の規制と顧客本位の業務運営|金商法と東証のガバナンス改革【2026年版】

証券業は、金融商品取引法(金商法)を基本法とし、金融庁が掲げる「顧客本位の業務運営」のもとで、投資家保護と適切な販売・助言が求められます。これは証券会社が顧客に対して負う規律です。一方、株式市場の側では、東京証券取引所が上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営(PBRの改善など)を要請し、市場の魅力を高める改革を進めています。本ページでは、証券会社をとりまく規制(顧客本位の業務運営)と、その舞台である市場の改革を、それぞれ主体を区別しながら整理します。

証券業をとりまく規制・市場改革の枠組み

「誰が誰に対して負う規律か」で主体を区別する。証券会社の規制(金商法・FD)と、上場企業の改革(東証)は別レイヤー
読み解き

証券業のルールは、主体を区別して捉えることが大切です。金融商品取引法(金商法)は、国が証券会社に課す証券業の基本法で、登録制や行為規制、投資者保護を定めます。顧客本位の業務運営(FD)は、その上で証券会社が顧客に対して負う規律で、顧客の利益を最優先する業務運営を求めます。この2つが、本ページの主題である「証券会社をとりまく規制」です。

これらとは別レイヤーにあるのが、東証のコーポレートガバナンス改革です。これは上場企業が株主に対して進める改革で、証券会社を規制するものではありません。証券業にとっては、取引の舞台である株式市場の魅力を高める環境整備にあたります。同じ「市場のルール」でも、規律の向かう先(顧客か、株主か)が異なる点を押さえると、全体像が整理しやすくなります。

主要論点

顧客本位の業務運営(FD)とは何か?

顧客本位の業務運営(Fiduciary Duty、FD)は、金融庁が掲げる「顧客本位の業務運営に関する原則」に基づき、証券会社などの金融機関が顧客の利益を最優先して業務を行うという考え方です。金融庁の「2025事務年度 金融行政方針」でも、「顧客本位の業務運営の確保」が重点項目に挙げられています。

具体的には、(1) 投資家が負担する手数料やコストの分かりやすい開示、(2) 顧客にとって最も有利な条件で注文を執行する最良執行、(3) 会社の利益と顧客の利益が相反する場面での利益相反の管理、(4) 商品の重要な情報を分かりやすくまとめた重要情報シートの活用などが求められます。委託手数料の無料化や、預り資産に応じたストック型への収益転換が進むなかで、販売する商品や手数料が顧客の利益にかなっているかが、これまで以上に問われています。

東証の「資本コストや株価を意識した経営」とは何か?

東京証券取引所は2023年3月31日、プライム市場とスタンダード市場の全上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。背景には、要請時点でプライム市場の約半数の企業がROE(自己資本利益率)8%未満・PBR(株価純資産倍率)1倍割れと、資本収益性や成長性に課題があったことがあります(東証)。

PBR1倍割れは、株価が会社の純資産(解散価値)を下回る状態で、市場が将来の成長を評価していないことを示します。東証は、各社に資本コストを意識した経営方針と進捗の開示を促しました。東証のフォローアップによると、2024年7月末時点でプライム市場の86%(1,406社)が対応を開示しています(検討中を含む、東証)。これは上場企業の改革であって証券会社の規制ではありませんが、株式市場の魅力を高め、「貯蓄から投資へ」の流れを支える市場環境の整備として、証券業の舞台に関わります。

規制・市場改革は、証券業にどう影響するのか?

顧客本位の業務運営(FD)は、証券会社の収益モデルそのものに関わります。手数料やコストの開示が進み、顧客本位が徹底されるほど、合理性の乏しい手数料や回転売買(手数料目的の頻繁な売買)は通用しにくくなります。これは、預り資産に応じたストック型の収益や、付加価値の高い助言への転換を後押しする力にもなります。

一方、東証のガバナンス改革は、上場企業の価値向上を通じて株式市場の魅力を高め、個人や海外の投資マネーを呼び込む環境をつくります。市場が活性化すれば、証券会社の売買仲介や引受の機会も広がります。規制(顧客への規律)と市場改革(市場環境の整備)は、向かう先こそ違いますが、いずれも「貯蓄から投資へ」を進め、健全で魅力ある市場を育てるという方向で証券業に影響します。

中期見通し

近未来1-2年

顧客本位の業務運営(FD)の徹底が進み、手数料・コストの開示や、商品の販売プロセスへの目配りが一段と求められます。委託手数料の無料化のなかで、何で稼ぐかと顧客本位をどう両立させるかが、各社の課題になります。

中期3-5年

東証のガバナンス改革で上場企業の価値向上が進めば、株式市場の魅力が高まり、証券業の取引・引受の機会が広がります。金融庁の資産運用立国の方針とあわせ、「貯蓄から投資へ」を支える制度の整備が続きます。

長期5-10年

顧客本位の規律と市場の魅力向上が両輪で進めば、家計の資産が投資へ動き、証券業の預り資産ビジネスを底上げします。規制を負担としてだけでなく、顧客の信頼と市場の厚みを育てる基盤として活かせるかが、長期の競争力を左右します。

よくある質問

顧客本位の業務運営(FD)とは何ですか?
金融庁が掲げる「顧客本位の業務運営に関する原則」に基づき、証券会社などが顧客の利益を最優先して業務を行う考え方です。手数料・コストの分かりやすい開示、最良執行、利益相反の管理、重要情報シートの活用などが求められます。金融庁の「2025事務年度 金融行政方針」でも重点項目です。
証券業を規制する基本の法律は何ですか?
金融商品取引法(金商法)です。証券会社の登録制、投資家への説明義務や適合性原則などの行為規制、投資者保護の枠組みを定める証券業の基本法です。金融庁がこの法律に基づいて監督を行います。
東証の「資本コストや株価を意識した経営」とは何ですか?
東京証券取引所が2023年3月、プライム・スタンダード市場の上場企業に要請した改革です。要請時点でプライム市場の約半数がPBR(株価純資産倍率)1倍割れだったことを背景に、資本コストを意識した経営方針と進捗の開示を促しました。2024年7月末時点でプライム市場の86%(1,406社)が対応を開示しています(検討中を含む、東証)。これは上場企業の改革で、証券会社の規制とは別です。
PBR1倍割れとはどういう意味ですか?
PBR(株価純資産倍率)は、株価が1株あたり純資産の何倍かを示す指標です。PBR1倍割れは、株価が会社の純資産(おおまかには解散価値)を下回る状態で、市場が将来の成長や資本効率を十分に評価していないことを示します。東証はこうした企業に、資本コストを意識した経営と開示を促しています。
顧客本位の規制は証券会社の収益にどう影響しますか?
手数料やコストの開示が進み、顧客本位が徹底されると、合理性の乏しい手数料や手数料目的の頻繁な売買は通用しにくくなります。これは、売買のたびに稼ぐフロー型から、預り資産に応じたストック型の収益や付加価値の高い助言への転換を後押しする力になります。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
    金融庁「2025事務年度 金融行政方針」
  2. 2.
    東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」フォローアップ
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