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蓄電池の政策・産業戦略|製造基盤の目標と経済安全保障【2026年版】

国は、蓄電池を成長産業かつ経済安全保障上の重要物資と位置づけ、「蓄電池・電源産業戦略」を掲げています。戦略は、日本国内の製造基盤を150GWh/年(2030年代半ば)に、日本企業がグローバルで持つ製造能力を600GWh/年(2030年)に高め、日本企業の蓄電池関連の売上高を2025年から2035年に3倍へ拡大する、といった目標を示します。これらは対象とする範囲が異なる別々の目標で、国内の市場規模とも足し合わせられません。戦略の全体像、製造基盤の目標、経済安全保障の観点を、混同しないように整理します。

蓄電池・電源産業戦略が掲げる主な目標(対象範囲が異なる別々の目標)

いずれも国が示す目標値。「国内の製造能力」「日本企業のグローバルの製造能力」「日本企業の売上高」と対象範囲が異なり、足し合わせたり同じ基準で比べたりはできない
国内製造基盤150GWh/年
対象範囲
日本国内の製造能力
内容(目標)
2030年代半ばを目標に、国内で電池を作る能力(製造基盤)を確立する
グローバル製造能力600GWh/年
対象範囲
日本企業全体(海外の生産も含む)
内容(目標)
2030年に、日本企業がグローバルで持つ製造能力の目標
蓄電池関連売上高3倍
対象範囲
日本企業のグローバル連結売上
内容(目標)
2025年から2035年にかけて、日本企業の蓄電池関連の売上高を3倍に拡大する
読み解き

蓄電池・電源産業戦略は複数の目標を掲げていますが、それぞれ対象とする範囲が異なる点に注意が必要です。国内製造基盤150GWh/年は日本国内で電池を作る能力の目標、グローバル製造能力600GWh/年は日本企業が海外も含めてグローバルで持つ製造能力の目標、売上高3倍は日本企業の蓄電池関連の売上高(グローバル連結)を2025年から2035年に3倍にする目標です。

「国内で作る能力」と「日本企業がグローバルで持つ能力」と「日本企業の売上高」は別々の基準で、150と600と3倍を並べて足したり、単純に対応づけたりはできません。また、これらの目標は、国内のリチウムイオン蓄電池の販売金額(約9,000億円規模、市場規模のページで扱う実績値)とも集計の範囲が異なります。戦略が引用する世界市場の見通しでは、蓄電池の世界市場が2035年に約2倍、2040年に約2.4倍(容量ベース)に拡大するとされますが、これも出典によって幅のある見通しで、国内の実績とは別の数字です。

蓄電池の政策・産業戦略をどう読むか

「蓄電池・電源産業戦略」とは — 三つの柱

蓄電池・電源産業戦略は、2022年に策定された「蓄電池産業戦略」を改訂したものです。改訂で「電源」が名称に加わったのは、電気自動車や定置用蓄電池に加えて、AIの普及で急増するデータセンターの電力制御や、モビリティ(乗り物)の電動化といった新たな需要を視野に入れたためです。戦略は、大きく三つの柱で構成されます。第1が国内製造基盤の確立、第2が日本企業のグローバルでの存在感の獲得、第3が次世代電池の市場獲得です。

第1の国内製造基盤は、セルの量産で中国・韓国勢に先行を許した現状を踏まえ、国内で電池を作る能力を取り戻すことをめざします。第2のグローバルプレゼンスは、日本企業が世界の電池市場で一定の地位を確保することを、第3の次世代電池は、全固体電池などで主導権を握ることを目標とします。これらは、脱炭素と経済安全保障の両面から、国内に電池産業の基盤を築こうとするものです。

製造基盤の目標をどう読むか — 別々の目標を区別する

戦略が掲げる数字を読むときは、対象範囲の違いを区別することが欠かせません。国内製造基盤150GWh/年(2030年代半ば)は、日本国内で電池を作る能力の目標です。GWh(ギガワット時)は電池をどれだけの量つくれるかを表す単位で、金額とは別の指標です。一方、グローバル製造能力600GWh/年(2030年)は、日本企業が海外の工場も含めてグローバルで持つ製造能力の目標で、国内の150GWhとは対象が異なります。

さらに、蓄電池関連売上高を3倍(2025年から2035年)にするという目標は、日本企業のグローバルでの売上高に関する目標で、製造能力(GWh)とも、国内の販売金額とも別の指標です。これらを混同すると、「日本の蓄電池市場が○倍になる」といった誤解につながります。150GWh(国内で作る能力)、600GWh(日本企業がグローバルで持つ能力)、3倍(日本企業の売上高)は、それぞれ範囲の違う別々の目標として理解する必要があります。

経済安全保障と供給網の強化

蓄電池の政策のもう一つの柱が、経済安全保障です。電池のセルの量産は中国・韓国に、原材料であるリチウム・コバルト・ニッケルは特定の産出国に偏っています。この構造は、供給が途絶えたり価格が高騰したりするリスクを抱えます。電池は自動車・再生可能エネルギー・電子機器など多くの産業を支えるため、その供給が不安定になれば経済全体に影響します。

このため、国は蓄電池を経済安全保障推進法に基づく特定重要物資に指定しました。これに基づき、国内の製造基盤の整備や、電池の材料である部素材、電池を作る製造装置までを含めた供給網の強化、安定供給の確保に向けた支援を進めています。使用済み電池からの資源回収(リサイクル)も、資源を確保する手段として位置づけられます。産業戦略と経済安全保障は、国内に電池のバリューチェーンをどこまで確保できるかという共通の課題に取り組む、一体の政策です。

主要論点

なぜ国は蓄電池を産業戦略の柱に据えるのか?

国が蓄電池を産業戦略の柱に据えるのは、蓄電池が脱炭素・成長産業・経済安全保障という三つの要請の交点にあるためです。第1に、脱炭素です。再生可能エネルギーを主力電源にするには、その出力変動を支える蓄電池が不可欠で、電気自動車の普及にも車載電池が欠かせません。第2に、成長産業としての期待です。世界の蓄電池市場は今後も拡大が見込まれ、そこで日本企業が地位を確保できれば、雇用や付加価値を国内に生み出せます。

第3に、経済安全保障です。電池のセルの量産と原材料の供給が中国・韓国などに集中する現状は、供給の途絶や価格の変動というリスクを伴います。電池は多くの産業を支える基盤であるため、その供給を他国に大きく依存することは、経済安全保障上の懸念になります。

この三つが重なるからこそ、国は蓄電池を単なる一産業ではなく、政策的に支える戦略分野と位置づけています。かつて日本企業が世界をリードしながらセルの量産で後れをとった経緯もあり、国内に製造基盤を取り戻し、次世代技術で主導権を握ることが、戦略の狙いです。

国内製造基盤150GWhの目標は、達成できるのか?

国内製造基盤150GWh/年(2030年代半ば)という目標は、簡単に達成できるものではありません。セルの量産では、政府支援も背景に大規模投資を続けた中国・韓国勢が先行しており、コスト競争力で日本勢を上回っています。国内に製造基盤を築くには、この量産のコスト競争に対抗できるかが問われます。

そのため、国は工場の新設や設備投資への支援を通じて、国内の製造能力の拡大を後押ししています。パナソニックが国内外で車載電池の工場を増強するなど、企業側の投資も進んでいます。ただし、EV需要の伸びが一服するなかで、需要に見合う規模の投資を続けられるか、量産のコストを下げられるかが課題です。

目標の達成には、製造能力(GWh)を増やすだけでなく、その電池を使う需要(車載・定置用)が国内外で伸び、採算がとれることが前提になります。150GWhという数字は、国内で電池を作る能力を取り戻すという方向性を示す目標であり、その実現には、企業の投資、需要の拡大、コストの低減、そして政策の後押しがそろう必要があります。

「売上高3倍」など複数の目標は、何を意味するのか?

蓄電池・電源産業戦略には、複数の数値目標があり、それぞれ意味する対象が異なります。混同しないことが大切です。国内製造基盤150GWh/年は日本国内で電池を作る能力、グローバル製造能力600GWh/年は日本企業が海外も含めてグローバルで持つ能力、蓄電池関連売上高3倍(2025年から2035年)は日本企業のグローバルでの売上高に関する目標です。

これらは「国内で作る能力」「日本企業がグローバルで持つ能力」「日本企業の売上高」と、対象範囲がすべて異なります。150と600を足したり、売上高3倍を製造能力と対応づけたりはできません。また、これらの政策目標は、国内のリチウムイオン蓄電池の販売金額(約9,000億円規模、実績値)とも別の指標で、同じ土俵で比べられません。

こうした複数の目標があるのは、蓄電池産業を「国内でどれだけ作るか」「世界でどれだけ存在感を持つか」「どれだけ稼ぐか」という複数の角度から捉えているためです。それぞれの目標が何を対象にしているかを区別して読むことで、政策の狙いを正しく理解できます。数字の大小だけを取り出して比べると、実態を見誤ることになります。

中期見通し

近未来1-2年

国内製造基盤への投資支援が続きます。国は工場の新設や設備投資への支援を通じて、国内の製造能力の拡大を後押しします。EV需要が一服するなかでも、車載・定置用の需要を見据えた投資が進むかが焦点です。経済安全保障に基づく供給網の強化や、特定重要物資としての支援も継続します。

中期3-5年

製造基盤の目標に向けた進捗が問われます。2030年代半ばの国内150GWh/年、2030年のグローバル600GWh/年に向けて、企業の投資と需要の拡大がどこまで進むかが評価されます。次世代電池や部素材、資源循環を含めた供給網を、国内やパートナー国でどこまで確保できるかが、政策の実効性を左右します。

長期5-10年

次世代電池と経済安全保障が長期の焦点です。全固体電池などで日本勢が主導権を握れるか、供給網の脱・一極集中を進められるかが、戦略の成否を分けます。脱炭素に向けた電池需要の拡大のなかで、国内に電池のバリューチェーンをどこまで根付かせられるかが、長期の課題として残ります。

よくある質問

国の蓄電池政策(産業戦略)はどうなっていますか?
国は「蓄電池・電源産業戦略」を掲げ、国内製造基盤の確立、日本企業のグローバルでの存在感の獲得、次世代電池の市場獲得の三つを柱としています。目標として、国内の製造能力を150GWh/年(2030年代半ば)、日本企業がグローバルで持つ製造能力を600GWh/年(2030年)に高め、日本企業の蓄電池関連の売上高を2025年から2035年に3倍へ拡大することなどを示しています。あわせて、蓄電池を経済安全保障上の重要物資と位置づけ、供給網の強化を進めています。
150GWhと600GWhと売上高3倍は、どう違うのですか?
対象とする範囲が異なる別々の目標です。150GWh/年は日本国内で電池を作る能力(製造基盤)、600GWh/年は日本企業が海外も含めてグローバルで持つ製造能力、売上高3倍は日本企業のグローバルでの蓄電池関連の売上高に関する目標です。「国内で作る能力」「日本企業がグローバルで持つ能力」「日本企業の売上高」と対象が違うため、足し合わせたり同じ基準で比べたりはできません。
「蓄電池・電源産業戦略」とは何ですか?
2022年に策定された「蓄電池産業戦略」を改訂した、国の産業政策です。改訂で「電源」が名称に加わったのは、電気自動車や定置用蓄電池に加え、AIのデータセンターの電力制御やモビリティの電動化といった新たな需要を視野に入れたためです。国内製造基盤の確立、グローバルでの存在感の獲得、次世代電池の市場獲得という三つの柱で構成されています。
なぜ蓄電池が経済安全保障の対象になっているのですか?
電池のセルの量産が中国・韓国に、原材料のリチウム・コバルト・ニッケルが特定の産出国に偏っているためです。この構造は、供給の途絶や価格の高騰というリスクを伴い、電池が多くの産業を支えるだけに、経済全体への影響が懸念されます。国は蓄電池を経済安全保障推進法に基づく特定重要物資に指定し、国内の製造基盤や部素材を含む供給網の強化、安定供給の確保を進めています。
産業戦略の目標と国内の市場規模は同じものですか?
別のものです。産業戦略の目標(製造能力のGWhや日本企業の売上高)は、国が掲げる将来の目標値で、対象も範囲も複数あります。一方、国内の市場規模(リチウムイオン蓄電池の販売金額 約9,000億円規模)は、国内で販売された電池の金額の実績値です。政策目標と市場規模は集計の対象も単位も異なるため、混同せずに区別して捉える必要があります。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
    経済産業省 蓄電池・電源産業戦略(2026年改訂、旧「蓄電池産業戦略」2022年)
  2. 2.
    経済産業省 蓄電池の安定供給確保に関する取組方針(経済安全保障推進法)
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