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TOPIC DETAIL · DECARBONIZATION & POLICY

水処理の脱炭素と規制|下水汚泥の資源利用と水の制度【2026年版】

下水処理は、汚れた水をきれいにするだけの施設から、エネルギーや資源を生み出す施設へと役割を広げています。下水汚泥を発酵させて出るガスで発電したり、汚泥に含まれるリンを肥料原料として回収したりする取り組みが進んでいます。国土交通省によると、下水汚泥のエネルギー化率は全国で31%、下水処理場のバイオガス発電施設は全国で146か所にのぼります。脱炭素と資源利用の動き、水質汚濁防止法や改正水道法などの制度を整理します。

下水汚泥エネルギー化率
31%
令和6年度・全国。下水汚泥中の有機物のうちエネルギー利用された割合
出典: 国土交通省
エネルギー化率 (政令市)
50%
令和6年度・政令指定都市。全国平均を上回る。汚泥量が多くエネルギー回収を導入しやすい
出典: 国土交通省
バイオガス発電施設
146か所
令和6年度末・全国。下水汚泥から出るガスで発電する下水処理場の数
出典: 国土交通省

下水汚泥の資源利用の方法

発酵させてガスで発電する、リンを回収する、燃料や資材にするなど

下水汚泥は、いくつかの方法で資源として使われます。代表的な方法の一つがバイオガス発電です。汚泥を発酵 (消化) させると、燃料になるメタンを多く含むガスが出るため、これで発電します。発電した電力は、施設で使ったり、固定価格買取制度 (FIT) で売ったりします。次に、汚泥に含まれるリンを取り出すリン回収です。リンは肥料に欠かせない資源で、日本は原料をほぼ輸入に頼るため、下水汚泥は貴重な国産のリン源として注目されています。このほか、汚泥を乾燥・炭化して燃料にしたり、発酵させて肥料にしたり、焼却した灰をセメントなどの建設資材の原料に使ったりと、用途が広がっています。汚れを取り除く対象だった汚泥が、エネルギーと資源を生む素材へと変わりつつあります。

バイオガス発電
どういう方法か
下水汚泥を発酵させて出るガス (消化ガス、メタンを多く含む) で発電する
生み出すもの
電力・熱 (再生可能エネルギー)
リン回収
どういう方法か
下水汚泥に含まれるリンを取り出す
生み出すもの
肥料の原料 (国産のリン資源)
固形燃料化
どういう方法か
下水汚泥を乾燥・炭化して燃料にする
生み出すもの
石炭などの代わりになる燃料
肥料・建設資材への利用
どういう方法か
汚泥を発酵させて肥料 (コンポスト) にしたり、焼却灰をセメント原料などにする
生み出すもの
肥料、セメント・建設資材の原料

バイオガス発電 — 汚泥からエネルギーをつくる

バイオガス発電は、下水汚泥の資源利用で近年広がっている代表的な方法です。下水汚泥を、酸素のない状態で微生物に分解させる (発酵・消化させる。この分解を嫌気性消化といいます) と、燃料になるメタンを多く含むガス (消化ガス) が発生します。このガスを燃やして発電機を回し、電気をつくります。

国土交通省によると、こうしたバイオガス発電を行う下水処理場は、全国に146か所あります (令和6年度末)。発電した電力は、下水処理場で使う電力をまかなったり、固定価格買取制度 (FIT) で電力会社に売ったりします。下水処理は電力を多く使う施設のため、汚泥からエネルギーを取り出せれば、施設全体の脱炭素と、電気代の節約の両方につながります。運営権を民間に委ねる官民連携 (PPP/PFI) で発電施設を整備する例も増えています。

リン回収 — 輸入に頼るリンを取り戻す

リン回収は、下水汚泥に含まれるリンを取り出し、肥料の原料として使う取り組みです。リンは、作物を育てるのに欠かせない成分で、肥料の三大要素の一つです。ところが、リンの原料となる鉱石 (リン鉱石) は国内でほとんど採れず、日本はほぼ全量を輸入に頼っています。

下水汚泥には、人の排せつ物や工場排水に由来するリンが多く含まれます。これを回収できれば、国産のリン資源として活用できます。一部の下水処理場では、汚泥からリンを取り出して肥料メーカーに供給する取り組みが始まっています。国際的にリンの調達が不安定になるなか、下水汚泥は、食料生産を支える資源の供給源としても注目されています。

燃料・肥料・建設資材 — 汚泥を無駄にしない

バイオガス発電やリン回収のほかにも、汚泥の使い道は広がっています。汚泥を乾燥・炭化して固形燃料にすれば、石炭などの代わりに発電所やセメント工場で燃やせます。汚泥を発酵させて肥料 (コンポスト) にしたり、焼却した後の灰をセメントや建設資材の原料に使ったりする方法もあります。

これらは、埋め立て処分を減らし、汚泥を無駄なく使う「資源循環」の考え方に沿った取り組みです。どの方法を選ぶかは、汚泥の量や地域の事情によって異なりますが、共通するのは、汚泥を「処分するもの」から「使うもの」へと捉え直す発想です。下水道が、資源を生み出す拠点としての役割を強めています。

なぜ下水道が資源・エネルギーの拠点になるのか

下水汚泥は資源の塊

下水道が資源・エネルギーの拠点として注目されるのは、下水汚泥が資源の塊だからです。下水汚泥には、微生物の働きで分解するとガスになる有機物や、肥料の原料になるリン、窒素といった成分が豊富に含まれています。これまでは、汚泥を焼却して埋め立てるなど、処分するものとして扱われてきました。

しかし、汚泥を処分するには、焼却の燃料代や埋め立ての費用がかかります。その汚泥からエネルギーや資源を取り出せれば、処分の費用を減らせるうえ、電力や肥料原料という価値を生み出せます。下水道は、全国の家庭や工場から水を集める巨大なネットワークであり、そこに集まる汚泥は、いわば都市が生み出す資源だと捉え直されつつあります。

下水道の脱炭素 — 省エネと創エネ

もう一つの背景が、脱炭素 (カーボンニュートラル) の流れです。下水処理は、水をきれいにするためにポンプや送風機を動かし、多くの電力を使う施設です。このため、国や自治体は、下水道の脱炭素を重要な課題と位置づけています。

取り組みは、大きく「省エネ」と「創エネ」に分かれます。省エネは、効率のよい機器の導入などで使う電力を減らすことです。創エネは、汚泥から取り出したガスで発電するバイオガス発電のように、施設自身がエネルギーを生み出すことです。使うエネルギーを減らし、生み出すエネルギーを増やすことで、下水処理場全体の二酸化炭素の排出を抑えます。汚泥の資源化は、この脱炭素の取り組みの中心に位置づけられています。

資源化を担う企業

下水汚泥の資源化を技術で支えているのが、下水道の設備を手がける企業です。なかでも月島ホールディングスは、汚泥処理や下水道の設備を主力とし、汚泥の消化 (発酵) やバイオガス発電、リン回収といった資源化の分野で存在感を持ちます。メタウォーターなどの上下水道に強い専業企業も、こうした設備を手がけています。

汚泥の資源化は、自治体だけで進めるのが難しいため、民間の技術と資金を活用する官民連携 (PPP/PFI) の形が広がっています。設備を納入するだけでなく、施設の運営やエネルギーの販売までを含めて事業化する動きもあり、企業にとっては、装置を売り切るビジネスから、資源やエネルギーを生み出すサービスへと事業を広げる機会となっています。

水処理を取り巻く規制・制度はどうなっているのか

排水の水質を定める水質汚濁防止法

水処理の需要を根本で支えているのが、排水の規制です。工場や事業場から川や海に流す排水は、水質汚濁防止法によって、有害物質や汚れの濃度の基準が定められています。企業は、この基準を満たすために、排水を処理する設備や薬品を導入する必要があります。

つまり、規制があるからこそ、工場は排水処理にお金をかけ、水処理の需要が生まれます。水質汚濁防止法は環境省が所管しており、水質の基準は、環境や健康への影響をふまえて見直されます。規制が強まれば、より高度な処理が求められ、新しい装置や薬品の需要につながります。水処理業界にとって、排水規制は事業の土台となる制度です。

上下水道の制度と2024年の行政一元化

上下水道は、水道法などの制度のもとで運営されています。2018年に改正された水道法は、人口減で経営が厳しくなる水道事業を支えるため、複数の自治体が事業を統合する広域連携や、運営を民間に委ねる官民連携を進める内容でした。

さらに2024年4月には、水道行政の体制が変わりました。これまで上水道は厚生労働省が所管していましたが、上水道の整備・管理は国土交通省、水質の基準づくりは環境省が担う形に再編されました。もともと国土交通省が担ってきた下水道と一体で、上下水道を運営・更新する体制です。人口減のなかで、上下水道を効率的に維持する制度づくりが進んでいます。

脱炭素・資源循環を促す政策

近年は、脱炭素と資源循環を促す政策が、水処理の新しい方向を後押ししています。国は、下水道を脱炭素の重要な分野と位置づけ、汚泥のエネルギー化やバイオガス発電、リン回収といった資源利用を推進しています。

これらの取り組みには、施設の整備に補助を出したり、官民連携を後押ししたりする政策が用意されています。発電した電力を売れる固定価格買取制度 (FIT) も、バイオガス発電の普及を支えています。排水をきれいにするという従来の規制に加えて、汚泥を資源として活かし、脱炭素に貢献するという新しい役割が、政策によって水処理業界に求められるようになっています。

主要論点

下水汚泥は、なぜ資源として注目されるのか?

下水汚泥が資源として注目されるのは、エネルギーと肥料原料の両方を含むからです。下水汚泥には、発酵させるとガスになる有機物と、肥料に欠かせないリンや窒素が豊富に含まれています。これまでは、焼却して埋め立てるなど処分するものでしたが、そこからエネルギーや資源を取り出せることが分かってきました。

エネルギーの面では、汚泥を発酵させて出るガスで発電するバイオガス発電が広がり、全国146か所の下水処理場で行われています。資源の面では、リンの回収が注目されています。リンは肥料に欠かせないのに、原料をほぼ輸入に頼るため、下水汚泥は貴重な国産のリン源となります。

処分に費用がかかっていた汚泥から、電力や肥料原料という価値を生み出せれば、下水道の経営にもプラスになります。人口減で水道事業の経営が厳しくなるなか、汚泥の資源化は、下水道を持続させる手立ての一つとしても期待されています。

水処理の脱炭素は、どこで進むのか?

水処理の脱炭素は、主に下水処理場で進みます。下水処理は、水をきれいにするためにポンプや送風機を動かし、多くの電力を使う施設です。このため、下水道全体の脱炭素が重要な課題とされています。

取り組みは、「省エネ」と「創エネ」に分かれます。省エネは、効率のよい機器の導入で使う電力を減らすことです。創エネは、汚泥から取り出したガスで発電するバイオガス発電のように、施設自身がエネルギーを生み出すことです。下水汚泥のエネルギー化率は全国で31%、政令指定都市では50%と全国平均を上回り、汚泥量の多い大都市でエネルギー回収が進んでいます。

使うエネルギーを減らし、生み出すエネルギーを増やすことで、下水処理場の二酸化炭素の排出を抑えます。企業にとっては、省エネ機器や、バイオガス発電の設備、汚泥の資源化技術が、新しい需要の分野となっています。

規制は、水処理業界にとって負担か機会か?

排水などの規制は、水処理業界にとって需要を生む土台であり、負担というより機会の側面が大きいと言えます。工場や事業場からの排水は、水質汚濁防止法によって水質の基準が定められています。企業は、この基準を満たすために排水処理の設備や薬品を導入する必要があり、これが水処理の需要の源になっています。

規制が強まれば、より高度な処理が求められ、新しい装置や薬品の需要が生まれます。近年は、排水の規制に加えて、脱炭素や資源循環を促す政策が、汚泥のエネルギー化やリン回収といった新しい分野の需要を後押ししています。

もちろん、規制に対応するのは、排水を出す企業にとっては費用の負担です。しかし、水処理を担う企業から見れば、規制と政策が需要を生み出し続ける構図があります。制度の動きを先読みして、求められる技術をそろえられるかが、水処理企業の競争力を左右します。

中期見通し

近未来1-2年

下水汚泥のエネルギー化と、官民連携による整備が広がります。バイオガス発電やリン回収の設備が、補助や固定価格買取制度 (FIT) の後押しを受けて増えます。人口減で経営が厳しい自治体では、民間の技術と資金を使う官民連携 (PPP/PFI) で、汚泥の資源化施設を整備する例が増える見通しです。排水の規制を土台とした水処理の需要も、底堅く続きます。

中期3-5年

中期では、下水道の脱炭素の取り組みが本格化します。省エネ機器の導入と、汚泥からのエネルギー回収の両面で、下水処理場の二酸化炭素の排出を減らす動きが進みます。リンの国際的な調達が不安定になるなか、国産のリン源としての汚泥の価値も高まります。脱炭素と資源循環を促す政策のもとで、汚泥の資源化技術を持つ企業に、新しい需要が生まれるとみられます。

長期5-10年

長期では、下水処理場がエネルギーと資源を生み出す拠点へと役割を変えていく可能性があります。水をきれいにするだけでなく、電力・熱・肥料原料・燃料を生み出す「資源工場」として、地域の脱炭素や資源循環の中核を担う構想も描かれています。水処理企業にとっては、装置を納めるビジネスから、エネルギーや資源を生み出すサービスへと、事業の軸を広げる長期の機会となります。

よくある質問

下水汚泥のエネルギー化率とは何ですか?
下水汚泥のエネルギー化率は、下水汚泥に含まれる有機物のうち、エネルギーとして利用された割合を示す指標です。国土交通省によると、令和6年度の全国のエネルギー化率は31%で、汚泥量の多い政令指定都市では50%に達しています。汚泥を発酵させて出るガスで発電するバイオガス発電や、汚泥を燃料にする取り組みが、この数値を押し上げています。
下水汚泥のバイオガス発電とは何ですか?
下水汚泥を、酸素のない状態で微生物に分解させる (発酵・消化させる) と、燃料になるメタンを多く含むガス (消化ガス) が発生します。このガスを燃やして発電するのがバイオガス発電です。国土交通省によると、こうした発電を行う下水処理場は全国に146か所あります (令和6年度末)。発電した電力は施設で使ったり、固定価格買取制度 (FIT) で売ったりします。下水処理場の脱炭素と電気代の節約につながります。
下水汚泥からリンを回収するのはなぜですか?
リンは肥料に欠かせない成分ですが、原料となる鉱石は国内でほとんど採れず、日本はほぼ全量を輸入に頼っています。下水汚泥には、人の排せつ物や工場排水に由来するリンが多く含まれるため、これを回収すれば国産のリン資源として活用できます。一部の下水処理場では、汚泥からリンを取り出して肥料の原料に使う取り組みが始まっています。リンの調達が国際的に不安定になるなか、注目されています。
水質汚濁防止法とはどんな法律ですか?
水質汚濁防止法は、工場や事業場から川や海に流す排水について、有害物質や汚れの濃度の基準を定める法律です。環境省が所管しています。企業は、この基準を満たすために排水処理の設備や薬品を導入する必要があり、これが水処理の需要の源になっています。規制が強まれば、より高度な処理が求められ、新しい装置や薬品の需要につながります。水処理業界にとって、排水規制は事業の土台となる制度です。
2024年に水道行政はどう変わったのですか?
2024年4月に、水道行政の所管が再編されました。これまで上水道は厚生労働省が所管していましたが、上水道の整備・管理は国土交通省、水質の基準づくりは環境省が担う形になりました。もともと国土交通省が担ってきた下水道と一体で、上下水道を運営・更新する体制です。人口減で経営が厳しくなる水道事業を、効率的に維持する狙いがあります。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
    国土交通省「下水汚泥エネルギー化率」(令和6年度実績)
  2. 2.
    国土交通省「下水処理場におけるバイオガス発電施設」(令和6年度末)
  3. 3.
    水質汚濁防止法・水道法ほか関連制度
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