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水処理業界の構造|素材から運転管理までの仕組みと担い手【2026年版】

水処理業界の構造を、素材から装置、運転維持管理までのバリューチェーンと、担い手の業態区分という観点から整理します。分離膜や薬品などの素材を上流に、それらを組み込んだ装置・プラントを中核として、設計施工や運転維持管理を経て、自治体や製造業などの需要側へと連なる流れがあります。専業メーカー、化学系の膜メーカー、ポンプや環境プラントの兼業メーカー、上下水道の運営を担う事業者まで、水処理がどう組み立てられているかを順に見ていきます。

水処理業界のバリューチェーンと業態区分

バリューチェーン・業態区分・領域の棲み分け・運転維持管理の4つの観点

水処理の構造は、バリューチェーン (素材から製品・サービスが需要側に届くまでの一連の流れ)・業態区分・領域の棲み分け・運転維持管理という4つの観点で捉えられます。担い手は、水処理を主業とする専業メーカー、分離膜や薬品を供給する化学系の素材メーカー、ポンプや環境プラントの一部として手がける兼業メーカー、そして上下水道の運営を受託する運営・商社系の事業者に整理できます。上場する専業だけでも7社が確認でき、非上場の事業者も含めて多数の担い手が競う構造です。なお、この4つの業態は互いにきれいに分かれる区分ではなく、「水処理を主業とするか (専業か兼業か)」と「素材・装置・運営のどの機能を担うか」という2つの見方を重ねた整理である点に注意が必要です。

専業メーカー
特徴・役割
水処理を主業とし、装置・薬品・運転維持管理などを手がける。領域ごとに強みが分かれる
代表的なプレイヤー
栗田工業、メタウォーター、オルガノ、前澤工業、月島ホールディングス、野村マイクロ・サイエンス、水道機工
膜・素材メーカー (化学系)
特徴・役割
分離膜や水処理薬品などの素材を供給する。化学メーカーが製造を担う
代表的なプレイヤー
東レ・日東電工・旭化成・東洋紡エムシー
兼業メーカー (重工・ポンプ)
特徴・役割
ポンプや環境プラントを主力とし、その一部として水処理・環境を手がける。連結の主力は別事業
代表的なプレイヤー
荏原・カナデビア (旧日立造船)
運営・O&M・商社系 (非上場を含む)
特徴・役割
上下水道の運営や維持管理の受託、官民連携 (PPP) を担う
代表的なプレイヤー
水ing (三菱商事系) ・フソウ・神鋼環境ソリューション (神戸製鋼グループ)

バリューチェーン — 素材から運転維持管理まで

水処理業界は、大きく4つの段階でつながっています。上流にあるのが、分離膜や水処理薬品などの素材です。逆浸透 (RO) 膜などの分離膜は東レ・日東電工・旭化成・東洋紡エムシーといった化学メーカーが、薬品は栗田工業やオルガノなどが供給します。ポンプや計装・ろ材などの機器も、この上流に位置します。

中核となるのが、素材を組み込んで浄水・排水処理の設備をつくる装置・プラントメーカーです。ここに専業メーカーや兼業メーカーが位置づけられます。その下流で、設備を据え付ける設計施工 (EPC) や、施設の運転・維持管理を担う運転維持管理 (O&M) が続きます。

そして最終的に、需要側である自治体 (上下水道)、製造業 (工業用水・排水)、電子産業 (超純水) へと届きます。なお上下水道では、これらの処理設備に加えて、水を送る管路 (配水網) も資産の中核を占め、その老朽化した管路の更新も大きな需要となっています。素材の製造から装置、運転管理、需要側までが一連の流れでつながっており、企業によって、この流れのどこに軸足を置くかが異なります。

業態区分 — 専業・化学系・兼業・運営系

担い手は、事業の性格によって大きく4つに整理できます。第1は専業メーカーです。栗田工業、メタウォーター、オルガノ、前澤工業、月島ホールディングス、野村マイクロ・サイエンス、水道機工などが、水処理を主業として装置・薬品・運転維持管理を手がけます。それぞれ上下水道、工業用水・超純水、産業排水・薬品といった得意領域を持っています。

第2は膜・素材メーカー (化学系) です。東レ・日東電工・旭化成・東洋紡エムシーが、分離膜という素材を供給します。これらは化学メーカーで、水処理装置そのものより、その中核となる膜の製造を担っています。第3は兼業メーカー (重工・ポンプ) です。荏原はポンプ (風水力) を主力とし、その技術の延長で環境・水処理を手がけます。カナデビア (旧日立造船) は環境プラントを主力とし、ごみ焼却などと並んで海水淡水化などの水処理を手がけます。いずれも連結の主力に別の事業を持つ点が専業と異なります。

第4は運営・O&M・商社系です。三菱商事系の水ingや、フソウ、神戸製鋼グループの神鋼環境ソリューションなどが、上下水道の運営や維持管理の受託、官民連携 (PPP) を担います。これらには非上場の事業者も含まれます。装置をつくる企業と、施設を運営する企業が、それぞれの役割で業界を支えています。

領域の棲み分け — 上下水道・工業用水・産業排水

専業メーカーは、得意とする需要領域で棲み分けています。1つは上下水道です。メタウォーター・前澤工業・水道機工が、浄水場や下水処理場の設備・運転管理を手がけます。自治体向けの官公需 (自治体からの需要) が中心で、施設の更新や広域化が主なテーマです。

2つ目は工業用水・超純水です。オルガノ、野村マイクロ・サイエンス、栗田工業が、半導体などの電子産業向けの超純水を供給します。半導体の生産設備の投資を背景に伸びている領域です。3つ目は産業排水と水処理薬品で、栗田工業やオルガノが、工場の排水処理や、ボイラ・冷却水向けの薬品を手がけます。

同じ水処理でも、需要先が自治体か製造業か、扱うのが装置か膜か薬品かで、担い手が分かれます。業界全体としては多数の事業者が競う一方、超純水のように高度な技術が要る領域では、担える企業が限られる傾向があります。

運転維持管理とPPP — 「つくる」から「運営する」へ

近年、構造上の変化として広がっているのが、設備を「つくる」から施設を「運営する」への広がりです。従来、装置メーカーは設備を納入することが中心でしたが、施設の運転や維持管理を長期で受託する運転維持管理 (O&M) の比重が高まっています。メタウォーターや水ingなどが、この分野に取り組んでいます。

背景には、人口減で自治体の水道事業の経営が厳しくなり、運営を民間に委ねる動きがあります。ただし、施設の運営権を民間に長期で委ねるコンセッション (運営権方式) は宮城県のみやぎ型など一部の例に限られます。実際に広がっているのは、運転・維持管理など複数の業務をまとめて民間に任せる包括的民間委託や、それを段階的に導入するウォーターPPPといった、より緩やかな官民連携です。2024年4月には、上水道の整備・管理が国土交通省へ移り (水質基準は環境省)、もともと国土交通省が担ってきた下水道と一体で運営・更新する体制になりました。

これにより、装置を売り切る事業から、施設のライフサイクル全体を支えるサービス事業へと、業界の重心が少しずつ移りつつあります。水事業の運営そのものでは、フランスのヴェオリアなどの海外の水メジャーが世界で先行しており、日本勢は設備の製造力に運営のノウハウをどう組み合わせるかが問われています。

主要論点

なぜ専業・化学系・兼業・運営系のメーカーが併存するのか?

水処理業界には、専業メーカー・化学系の膜メーカー・兼業メーカー・運営系の事業者が併存しています。これは、水処理が素材から装置、運営までの幅広い技術を必要とするためです。

分離膜は、高度な素材技術が求められる領域で、東レや日東電工といった化学メーカーが製造を担います。膜は化学の技術で、装置メーカーが自前で持つより、化学メーカーから調達する方が合理的な場合が多いためです。一方、浄水場や排水処理の装置・プラントは、水処理を主業とする専業メーカーが、領域ごとの専門性を武器に手がけます。ポンプや環境プラントを主力とする荏原やカナデビアは、その技術の延長として水処理・環境を手がけます。

さらに、上下水道の運営を担う水ingのような商社系の事業者が加わります。施設の運営は、設備の製造とは別に、資金の調達や長期の維持管理、行政との調整といったノウハウが要る領域です。装置メーカーが製造に集中する一方で、運営に強みを持つ事業者が施設の運転を受託する分業も成り立ちます。それぞれが素材・装置・運営という異なる機能で強みを持ち寄るため、単独の企業がすべてを担うのではなく、複数の業態が併存する構造になっています。

上下水道の運営 (O&M・PPP) はなぜ注目されるのか?

近年、上下水道の運営 (O&M・PPP) が構造上のテーマとして注目されています。背景にあるのは、人口減と施設の老朽化です。上水道はほぼ全国に行き渡り、下水道も広く普及して、新しく整備する需要は一巡しました。今後の課題は、高度成長期に整備した施設をどう更新し、維持していくかに移っています。

一方で、人口減により水道料金の収入は細り、自治体の水道事業の経営は厳しくなっています。職員の高齢化や人手不足も重なり、自治体だけで施設を運営・更新するのが難しくなってきました。そこで、施設の運転や維持管理を民間に委ねるO&Mや、複数業務をまとめて任せる包括的民間委託・ウォーターPPPが広がっています。施設の運営権を長期で委ねるコンセッションは、宮城県のみやぎ型など一部の例に限られ、より緩やかな官民連携が中心です。

この流れは、装置メーカーにとって、設備を売り切るビジネスから、施設のライフサイクル全体を支えるサービスビジネスへの転換を意味します。2024年4月には上水道の整備・管理が国土交通省へ移り (水質基準は環境省)、下水道と一体で運営する体制になったことも、これを後押ししています。運営のノウハウをどれだけ持つかが、今後の競争力を左右します。

水処理業界は寡占なのか、多数競争なのか?

水処理業界は、業界全体では多数競争でありながら、領域によっては担い手が限られるという二面性を持ちます。上場する専業だけでも7社があり、非上場の事業者や化学系の膜メーカー、兼業メーカーも含めると、多数の担い手が併存しています。業界全体を少数の企業が占める寡占ではありません。なお、専業のなかにも、水道機工が三菱重工グループに属するなど、大手グループの傘下にある企業もありますが、それぞれ独立した事業として水処理を手がけています。

ただし、領域ごとに集中度は異なります。半導体向けの超純水のように、高度な技術と実績が求められる領域では、オルガノ、野村マイクロ・サイエンス、栗田工業など、担える企業が限られます。逆浸透膜の製造も、東レ・日東電工・旭化成・東洋紡エムシーといった化学メーカーに集約されています。

一方、上下水道の設備や工事のように、地域性が強く多くの事業者が関わる領域では、担い手が広く分散しています。つまり水処理は、「業界全体は多数競争」でありながら「高度な技術を要する領域は少数に集中」という構造で、領域ごとに競争の姿が異なります。

中期見通し

近未来1-2年

運転維持管理 (O&M) と官民連携 (PPP) の広がりが構造上のテーマとなります。人口減で自治体の水道事業の経営が厳しくなるなか、施設の運営を民間に委ねる動きが続き、装置メーカーは設備の納入に加えて運営の受託にも軸足を広げていきます。2024年に一元化された水道行政のもとで、上下水道を一体で運営する体制づくりも進みます。

中期3-5年

中期では、装置事業からサービス事業への広がりが続きます。設備を売り切るビジネスから、施設のライフサイクル全体を支えるビジネスへと、業界の重心が移っていきます。同時に、半導体向けの超純水や、下水汚泥の資源利用といった成長領域で、専業メーカーと化学系・兼業メーカーの役割分担がさらに進む見通しです。

長期

長期では、国内の成熟と海外・脱炭素への広がりが業界構造に影響します。国内の上下水道が成熟するなか、分離膜などの技術を持つ企業は海外のプラントや製品での展開に、運営ノウハウを持つ企業は国内の運営受託に重心を置くなど、企業ごとの立ち位置が分かれていきます。素材・装置・運営という役割分担のなかで、各社がどこに軸足を置くかが問われます。

よくある質問

水処理業界はどのような構造になっていますか?
水処理業界は、分離膜や薬品などの素材を上流に、それを組み込んだ装置・プラントを中核として、設計施工 (EPC) や運転維持管理 (O&M) を経て、自治体や製造業などの需要側へと連なる構造です。担い手は、水処理を主業とする専業メーカー、分離膜を供給する化学系の素材メーカー、ポンプや環境プラントの兼業メーカー、上下水道の運営を担う運営・商社系の事業者に分かれます。
水処理の専業メーカーと兼業メーカーの違いは何ですか?
専業メーカーは、栗田工業・メタウォーター・オルガノなどのように、水処理を主業として装置・薬品・運転維持管理を手がける企業です。兼業メーカーは、荏原やカナデビアのように、ポンプや環境プラントを主力とし、その一部として水処理・環境を手がける企業です。兼業メーカーは連結売上の主力が別の事業のため、水処理の規模は事業セグメント単位で捉える必要があります。
分離膜はどの企業が作っているのですか?
逆浸透 (RO) 膜などの分離膜は、東レ・日東電工・旭化成・東洋紡エムシーといった化学メーカーが製造しています。膜は高度な素材技術が求められる領域で、水処理装置そのものをつくる専業メーカーとは別に、化学メーカーが素材の供給を担う構造です。日本メーカーは分離膜の製造で世界的に高い競争力を持つとされています。
水ingや神鋼環境ソリューションはどんな会社ですか?
いずれも上下水道や産業向けの水処理を手がける事業者です。水ingは三菱商事系で、上下水道の運営・維持管理 (O&M) や官民連携 (PPP) に強みを持ちます。神鋼環境ソリューションは神戸製鋼グループで、水処理・環境プラントを手がけます。これらは非上場ですが、上場企業と並んで水処理業界の重要な担い手です。
水道のコンセッションやPPPとは何ですか?
コンセッションは、水道施設の運営権を長期で民間事業者に委ねる仕組みで、宮城県のみやぎ型など一部の例に限られます。実際に広がっているのは、施設の運転・維持管理など複数の業務をまとめて民間に任せる包括的民間委託や、それを段階的に導入するウォーターPPP (官民連携) といった、より緩やかな仕組みです。人口減で自治体の水道事業の経営が厳しくなるなか、民間のノウハウを活用して効率的に施設を運営・更新する手段として活用が進んでいます。2024年4月には上水道の整備・管理が国土交通省へ移り (水質基準は環境省)、下水道と一体で運営する体制になりました。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
    各社 有価証券報告書・会社資料 (水処理 各社)
  2. 2.
    国土交通省「上下水道」資料
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