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分離膜技術と海水淡水化|日本メーカーが主導する膜の強み【2026年版】

分離膜は、水を通しながら塩分や不純物を通しにくくする膜で、水処理の中核となる技術です。逆浸透 (RO) 膜などの分離膜では、東レ・日東電工・旭化成・東洋紡エムシーといった日本のメーカーが製造を世界で主導するとされています。東レは、海水を真水に変える海水淡水化用のRO膜で世界シェアNo.1と自社で位置づけています。分離膜の種類と用途、海水淡水化での日本メーカーの地位を整理します。

分離膜の種類と用途

取り除ける粒子の細かさで、MF・UF・NF・RO・MBR用膜に分かれる

分離膜は、取り除ける粒子の細かさによって種類が分かれます。孔の大きい精密ろ過 (MF) 膜から、限外ろ過 (UF)、ナノろ過 (NF)、そして塩分やイオンまで取り除ける逆浸透 (RO) 膜へと、細かくなるほど高度な水処理ができます。なお最後のMBRは、膜の細かさの種類ではなく、微生物で汚れを分解する処理の方式を指し、実際にはMFやUFの膜を使います。用途に応じて、これらを組み合わせて使います。とくに逆浸透 (RO) 膜は、海水を真水に変える海水淡水化や、半導体向けの超純水づくり、工場排水の再利用など、水処理の最先端を担う膜です。

精密ろ過膜 (MF)
取り除けるもの (孔の細かさ)
濁りや細菌などの、比較的大きな粒子
主な用途
飲料水の処理、海水淡水化などの前処理
限外ろ過膜 (UF)
取り除けるもの (孔の細かさ)
たんぱく質やウイルスなどの微粒子
主な用途
飲料水の処理、海水淡水化の前処理
ナノろ過膜 (NF)
取り除けるもの (孔の細かさ)
一部のイオンや有害物質
主な用途
軟水化 (水の硬度を下げる)、有害物質の除去
逆浸透膜 (RO)
取り除けるもの (孔の細かさ)
塩分やイオンをほぼすべて
主な用途
海水淡水化、超純水、排水の再利用
MBR用の膜 (処理方式)
取り除けるもの (孔の細かさ)
処理水と活性汚泥 (微生物の塊) を分離。膜自体はMFやUFを使う
主な用途
下水・工場排水の処理

逆浸透 (RO) 膜 — 塩分まで取り除く最先端の膜

逆浸透 (RO) 膜は、水に圧力をかけて膜を通し、塩分やイオンをほぼすべて取り除く膜です。海水から真水をつくる海水淡水化の中心となる技術で、半導体づくりに使う超純水や、工場排水を再び使う水の再利用にも欠かせません。膜の孔がきわめて細かく、高い圧力をかけて水だけを通すため、高度な素材技術と運転の技術が求められます。

RO膜は、水不足や水の再利用のニーズを背景に、世界的に需要が拡大している分野です。海水淡水化では、一度使ったRO膜を定期的に交換する需要も、プラントが増えるにつれて積み上がっていきます。日本メーカーが世界で存在感を示すのも、主にこのRO膜の領域です。

MBR・UF・MF膜 — 下水処理から前処理まで

RO膜以外の膜も、用途ごとに役割を担います。MBR (膜分離活性汚泥法) 用の膜は、微生物で汚れを分解する下水・排水処理で、処理した水と微生物の塊 (活性汚泥) を分離するのに使います。狭い敷地でも高度な処理ができるため、下水処理場の再構築や工場排水の処理で採用が広がっています。

限外ろ過 (UF) 膜や精密ろ過 (MF) 膜は、より大きな粒子を取り除く膜で、飲料水の処理や、海水淡水化でRO膜に通す前の前処理に使われます。細かいRO膜を汚れから守るため、前処理でしっかり濁りを取り除くことが、プラント全体の効率を左右します。

日本メーカーはなぜ分離膜で世界を主導できるのか

東レ — 海水淡水化RO膜で世界トップクラス (自社IRで世界シェアNo.1と位置づけ)

分離膜で日本メーカーが世界を主導する象徴が東レです。東レは、自社のIR資料で、海水淡水化用のRO膜でグローバルシェアNo.1、とくに最大市場である中東で高いシェアを持つと位置づけています。RO膜を1960年代から開発してきたパイオニアで、"海淡の東レ"と自ら称するほど、この分野に強みを持っています。

象徴的なのが、アラブ首長国連邦のタビーラ (Taweelah) 海水淡水化プラントです。造水量が1日あたり約90万立方メートルという世界最大級の規模で、2024年に商業運転を始めました。東レは、最大市場のサウジアラビアで膜を現地生産するなど、顧客に近い体制で受注を伸ばしてきました。膜事業は、過去10年の売上収益が年平均10%で伸びた高成長事業だとしています。

日東電工・旭化成・東洋紡エムシー — それぞれの強み

東レ以外にも、有力な日本メーカーがあります。日東電工は、逆浸透膜を「Hydranautics」のブランドで手がけ、海水淡水化や工業用の膜で世界に展開しています。旭化成は、中空糸 (ストロー状の細い糸状の膜) 型の限外ろ過膜「Microza」などで、飲料水や工業用水の処理に強みを持ちます。東洋紡エムシーは、海水淡水化向けの中空糸型のRO膜に強く、独自の膜の形状を武器としています。

このように、日本メーカーは膜の種類や用途で強みを分け合っています。もっとも、海外にもデュポン (FilmTec) や韓国のLG化学といった有力なRO膜メーカーがあり、日本勢はこれらと競い合いながら高いシェアを占めるとされています。分離膜は化学の素材技術が問われる領域で、化学メーカーが長年培ってきた高分子の技術が、そのまま競争力になっています。

なぜ日本メーカーが強いのか

日本メーカーが分離膜で強い理由は、素材の技術と、長年の開発の蓄積にあります。RO膜のように塩分まで取り除く膜は、膜の孔の細かさや形を精密に制御する高度な高分子技術が必要です。日本の化学メーカーは、この素材技術を1960年代から積み上げてきました。

また、膜そのものだけでなく、水源や用途に応じてシステム全体を設計・提案する力や、世界各地でタイムリーに対応する体制も、競争力を支えています。膜は、一度採用されると交換需要が続くため、実績の積み重ねが次の受注につながる分野でもあります。ただし、世界シェアの具体的な数値は各社の開示や調査によって幅があるため、ここでは各社の位置づけを定性的に整理しています。

海水淡水化は国内と海外でどう違うのか

国内は淡水資源が豊富で、規模は限定的

海水を真水に変える海水淡水化は、日本国内では規模が限られています。日本は雨が多く、河川やダムなどの淡水資源が比較的豊富なため、コストのかかる海水淡水化に頼る必要が大きくないからです。

国内の代表例が、福岡市のまみずピア (海の中道奈多海水淡水化センター) です。2005年に運転を始め、最大で1日あたり50,000立方メートルの真水をつくれる、国内最大級の施設です。高圧と低圧のRO膜を組み合わせて淡水化しています。このほか沖縄県の北谷などにも施設がありますが、国内の海水淡水化施設は、大規模なものはわずかで、多くは小規模なものです。

海外では日本製の膜が大型プラントを主導

一方、水不足に悩む海外では、海水淡水化の需要が大きく、日本メーカーの膜が存在感を示しています。中東や北アフリカ、豪州などでは、生活用水や工業用水を海水淡水化でまかなうプラントの建設が続いており、そこで使われるRO膜を日本メーカーが供給しています。

日本勢は、水事業の運営そのものよりも、膜という技術・製品で世界の水需要に応えるという形で強みを発揮しています。海水淡水化のプラントは、一度つくると膜の交換需要が長く続くため、実績を積んだ日本メーカーには継続的な需要が見込まれます。国内で培った膜の技術を、海外のプラント向けの製品として展開する構図です。

膜の市場は拡大が見込まれる

膜の市場は、世界的に拡大が見込まれています。富士経済によると、水処理膜の世界市場は2030年に5,010億円規模 (2023年比+54.2%) に達すると予測されています。水の再利用や、半導体などのエレクトロニクス産業向けの需要が、拡大を後押しするとみられます。

これは調査会社による世界ベースの予測値で、日本国内の市場規模とは異なります。日本の膜・フィルター市場や日系メーカーの海外販売は、これとは別に集計されており、世界市場の数字と足し合わせられるものではありません。世界の数字を国内の規模と取り違えないよう注意が必要です。

半導体を支える超純水と、工業用水の再利用

超純水は膜とイオン交換でつくる

分離膜のもう一つの大きな用途が、超純水 (不純物やイオンを極限まで取り除いた、純度の高い水) です。半導体の製造では、ウエハーの洗浄などに大量の超純水を使い、わずかな不純物も欠陥の原因になるため、水道水を何段もの工程で磨き上げます。その中心となるのが、逆浸透 (RO) 膜と、イオンを取り除くイオン交換樹脂です。膜でろ過し、イオン交換で残ったイオンを除き、紫外線などで有機物を分解するといった工程を重ねて、超純水がつくられます。

超純水の装置では、オルガノや野村マイクロ・サイエンス、栗田工業といった日本メーカーが世界的な地位を占めており、なかでも野村マイクロ・サイエンスは半導体向けの超純水装置に特化しています。

半導体投資が需要を押し上げる

超純水の需要を押し上げているのが、半導体をはじめとするエレクトロニクス産業の設備投資です。半導体の微細化が進むほど、より高い純度の水が必要になり、工場 (fab) の新設・増設のたびに大量の超純水の設備が求められます。世界的な半導体の生産能力の増強が続くなか、超純水は水処理業界の成長分野の一つとなっています。

近年は、生成AIの普及を背景に、データセンターの冷却に使う水の需要も新たに広がっています。半導体とデータセンターという、デジタル社会を支える設備が、水処理の新しい需要を生んでいます。

工業用水の再利用も進む

工場で使う工業用水の再利用も、膜が支える分野です。化学・食品・鉄鋼などの工場では、大量の水を使いますが、水資源の制約や環境規制を背景に、使った水を処理して再び使う動きが広がっています。RO膜やMBRなどの膜が、排水を再利用できる水質まで処理する役割を担います。

水を大量に使う産業にとって、水の確保とコストは事業の制約になります。膜による水の再利用は、その制約を和らげる手段として、半導体に限らず幅広い産業で導入が進んでいます。

主要論点

日本メーカーは分離膜のどこで強いのか?

日本メーカーが分離膜で強いのは、主に逆浸透 (RO) 膜の領域です。塩分まで取り除くRO膜は、膜の孔の細かさや形を精密に制御する高度な素材技術が必要で、東レ・日東電工・旭化成・東洋紡エムシーといった化学メーカーが、長年の開発でこの技術を積み上げてきました。

とくに東レは、海水淡水化用のRO膜で世界シェアNo.1と自社で位置づけ、中東の大型プラントで採用されています。膜は、素材そのものの性能に加えて、水源や用途に応じたシステムの設計力や、世界各地での対応体制も競争力を左右します。

ただし、水事業の運営 (オペレーション) では、フランスのヴェオリアなどの海外の水メジャーが世界で先行しています。日本勢は、運営で世界を取るのではなく、膜や装置といった技術・製品で世界の水需要に応える点に強みがあります。

なぜ国内の海水淡水化は限定的で、海外で存在感があるのか?

日本国内で海水淡水化の規模が限られるのは、淡水資源が比較的豊富だからです。日本は雨が多く、河川やダムなどの水源があるため、コストのかかる海水淡水化に大きく頼る必要がありません。国内最大級のまみずピアでも1日あたり50,000立方メートルで、施設の数も限られています。

一方、中東や北アフリカ、豪州などの水不足の地域では、海水淡水化が生活・産業を支える重要な水源です。そこで使われるRO膜を、日本メーカーが供給しています。日本勢は、国内の需要が小さくても、海外の大きな需要に膜という製品で応えることで、世界で存在感を示しています。

この構図は、日本の水処理業界の特徴をよく表しています。国内は成熟して需要が限られる一方、技術・製品では世界に通用するという強みを、海水淡水化がわかりやすく示しています。

膜の市場はなぜ拡大が見込まれるのか?

膜の市場が拡大すると見込まれる背景には、水の再利用と、産業向けの需要があります。富士経済は、水処理膜の世界市場が2030年に5,010億円規模へ拡大すると予測しています。

1つは、世界的な水不足を背景とした水の再利用です。工場排水や生活排水を処理して再び使う動きが広がり、RO膜などの需要が伸びています。もう1つは、半導体などのエレクトロニクス産業です。製造工程で使う超純水をつくるのに膜が欠かせず、半導体の生産設備の投資が膜の需要を押し上げています。

ただし、これらは調査会社による予測値であり、実際の市場の伸びは、水関連の投資や技術の動向、各国の水政策に左右されます。世界市場の数字は、日本国内の規模とは別に集計されている点にも注意が必要です。

中期見通し

近未来1-2年

海水淡水化では、中東での新規プラントの建設と、膜の交換需要が続くとみられます。中東はプラント建設がピークに近づくとの見方もある一方、既存プラントの膜を定期的に交換する需要が積み上がります。膜は一度採用されると交換需要が長く続くため、プラントが増えるほど、日本メーカーには継続的な収益が積み上がる構図です。北アフリカや豪州、アジアなどでも新規のプラントが増え、供給機会が広がる見通しです。

中期3-5年

中期では、水の再利用と半導体向けの超純水が膜市場を牽引します。世界的な水不足を背景に、工場排水や下水を処理して再び使う動きが広がり、RO膜の需要が伸びます。半導体の生産設備の投資が続くなか、超純水向けの膜の需要も拡大が見込まれます。データセンターの冷却水など、新しい用途も広がりつつあります。

長期5-10年

長期では、日本メーカーが技術の優位をどう保つかが課題です。分離膜は、海外メーカーとの競争や、価格の低下圧力にさらされる分野でもあります。日本勢が、高性能の膜や、システム全体の提案力、運転支援などのサービスで付加価値を高められるかが、世界での地位を左右します。海水淡水化の造水コストの低減も、農業利用など新たな市場を開く可能性があります。

よくある質問

分離膜とは何ですか?
分離膜は、水を通しながら、塩分・イオン・不純物などを通しにくくする膜です。取り除ける粒子の細かさによって、精密ろ過 (MF)・限外ろ過 (UF)・ナノろ過 (NF)・逆浸透 (RO) といった種類があります。とくに逆浸透 (RO) 膜は塩分まで取り除けるため、海水淡水化や超純水づくり、水の再利用に使われる、水処理の中核となる技術です。
逆浸透 (RO) 膜とは何ですか?
逆浸透 (RO) 膜は、水に圧力をかけて膜を通し、塩分やイオンをほぼすべて取り除く膜です。膜の孔がきわめて細かく、海水から真水をつくる海水淡水化の中心技術です。半導体づくりに使う超純水や、工場排水を再び使う水の再利用にも使われます。高度な素材技術が必要で、東レなどの日本メーカーが世界で高い競争力を持ちます。
日本の水処理膜 (RO膜) は世界でどのくらいの地位にありますか?
逆浸透 (RO) 膜などの分離膜では、東レ・日東電工・旭化成・東洋紡エムシーといった日本メーカーが製造を主導するとされています。とくに東レは、海水淡水化用のRO膜で世界シェアNo.1と自社で位置づけ、中東などの大型プラントで採用されています。膜は、日本の水処理業界が技術・製品で世界に存在感を示す代表的な分野です。ただし具体的なシェアの数値は開示や調査によって幅があるため、位置づけとして整理しています。
日本の海水淡水化施設にはどんなものがありますか?
国内最大級の施設は、福岡市の「まみずピア (海の中道奈多海水淡水化センター)」で、2005年に運転を始め、最大で1日あたり50,000立方メートルの真水をつくれます。このほか沖縄県の北谷などにも施設がありますが、日本は淡水資源が比較的豊富なため、海水淡水化の施設は大規模なものはわずかで、多くは小規模です。日本メーカーの膜は、むしろ中東など海外の大型プラントで多く使われています。
水処理膜の市場規模はどれくらいですか?
富士経済によると、水処理膜の世界市場は2030年に5,010億円規模 (2023年比+54.2%) に達すると予測されています。水の再利用や、半導体などのエレクトロニクス産業向けの需要が拡大を後押しするとみられます。これは調査会社による世界ベースの予測値で、日本国内の市場規模とは別に集計されている点に注意が必要です。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
    東レ「水処理事業のポジショニング」(IR説明会資料)
  2. 2.
    福岡地区水道企業団 (まみずピア 海の中道奈多海水淡水化センター)
  3. 3.
    富士経済「高機能分離膜/フィルター関連技術・市場の全貌と将来予測」
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