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水処理の世界市場と海外展開|水メジャーと日本勢の役割の違い【2026年版】

世界の水ビジネス市場は、人口増加や都市化を背景に拡大しています。経済産業省の調査では、2025年に約92.4兆円規模と見込まれています。この世界市場では、フランスのヴェオリアやスエズといった「水メジャー」が、上下水道の運営で先行しています。一方、日本勢は運営そのものよりも、逆浸透膜や水処理装置といった技術・製品で世界の水需要に応えているのが特徴です。世界市場の規模、水メジャーと日本勢の役割の違い、日本勢の海外展開を整理します。

水メジャーと日本勢 — 役割の違い

水事業の「運営」で先行する海外の水メジャーと、「製品・技術」で応える日本勢

世界の水ビジネスは、大きく運営型と製品・技術型の2つの役割で捉えられます。運営型は、上下水道などの施設を、自治体に代わって長期で運営・維持管理するビジネスです。資金の調達や、長期の運転ノウハウ、行政との調整力が求められ、フランスのヴェオリアやスエズといった水メジャーが世界で先行しています。一方、製品・技術型は、分離膜や装置、薬品といった製品を供給するビジネスで、東レや栗田工業などの日本勢が強みを持ちます。日本勢は、水事業そのものを運営するより、その水事業に使われる技術・製品で世界の需要に応えるという立ち位置です。両者は競合するというより、役割が分かれています。

運営 (オペレーション) 型
ビジネスの中心
上下水道などの施設を、自治体などから長期にわたって受託して運営・維持管理する
主な担い手
ヴェオリア・スエズ (フランス) などの水メジャー
製品・技術型
ビジネスの中心
分離膜・水処理装置・薬品などの製品や、水処理の技術を供給する
主な担い手
東レ・栗田工業・オルガノなど (日本)

運営型 — 水メジャーが規模で先行

水事業の運営では、フランスのヴェオリアやスエズといった水メジャーが、世界で先行しています。水メジャーは、上下水道の施設を自治体などから長期で受託し、料金の徴収や施設の運転・維持管理までを一括して担います。これを世界各地で手がけることで、大きな事業規模を築いてきました。

ヴェオリアは、2021年に同業のスエズを買収することで合意し (買収総額は約3.4兆円)、2022年に主要事業を統合しました。かつては複数の水メジャーが競っていましたが、この統合で、ヴェオリアが水・環境の分野で世界最大級の企業となりました。運営を軸とするこの事業モデルは、日本勢が規模で追いつくのが難しい領域です。

製品・技術型 — 日本勢は膜・装置で応える

日本勢の主戦場は、運営ではなく製品・技術です。逆浸透 (RO) 膜などの分離膜では、東レ・日東電工・旭化成・東洋紡エムシーが製造を主導するとされ、中東などの海水淡水化プラントで日本製の膜が使われています。装置やプラントでは、栗田工業やオルガノなどが、工場や電子産業向けの水処理設備を世界に供給しています。

この構図では、水メジャーがつくる・運営するプラントに、日本勢が膜や装置を納めるという関係も生まれます。運営で世界を取るのではなく、世界中で建設される水処理の施設に、性能の高い製品を供給することで存在感を示すのが、日本勢のスタイルです。

世界の水ビジネス市場はどこにあるのか

市場規模は2025年に約92.4兆円

世界の水ビジネス市場は、大きく拡大しています。経済産業省の調査によると、その規模は2019年の71.9兆円から、2025年には約92.4兆円、2030年には110兆円を超える規模へと伸びると見込まれています。ここでいう水ビジネスには、上下水道の整備・運営や、工業用水、海水淡水化、水処理の装置・薬品まで、水に関わる幅広い事業が含まれます。

地域別に見ると (2019年時点)、最も大きいのは北米で20.8兆円、次いで欧州が19兆円中国が13.5兆円と続き、この上位3地域で世界のおよそ7割を占めます。先進国では上下水道の更新需要が、新興国では都市化・工業化に伴う新規の整備需要が、市場を支えています。

国内の数字とは足し合わせない

注意したいのは、この世界市場の数字は、国内の数字とは別のものだという点です。日本国内の水処理装置の受注額 (日本産業機械工業会で2024年度2,505億円) や、国内の上下水道の規模は、それぞれ日本国内だけを対象とした数字です。一方、世界の水ビジネス市場92.4兆円は、世界全体の水に関わる事業をまとめた規模です。

両者は、対象とする地域も、含まれる事業の範囲も異なるため、足し合わせたり、比べたりすることはできません。世界市場の大きさは、日本勢にとっての事業機会の広がりを示すものとして捉えるのが適切です。

拡大を支えるのは新興国と水不足

世界の水ビジネス市場が拡大する背景には、いくつかの要因があります。一つは、新興国の都市化・工業化です。アジアやアフリカ、中南米などで、人口が都市に集まり、工場が増えるにつれ、上下水道の整備や工業用水の需要が高まっています。

もう一つは、世界的な水不足と水の再利用です。気候変動や人口増で水資源が逼迫する地域が増え、海水淡水化や、排水を処理して再び使う水の再利用への投資が広がっています。水の安定した確保を重視する「水セキュリティ」の考え方が世界的に広がっていることも、市場の拡大を後押ししています。

なぜ日本勢は運営でなく製品で勝負するのか

運営は海外の水メジャーが先行

水事業の運営で、日本勢が海外の水メジャーに規模で見劣りするのには、理由があります。上下水道の運営を長期で受託するビジネスは、資金の調達力や、多くの施設を運営してきた実績、行政との交渉力がものを言います。ヴェオリアやスエズは、19世紀から水道事業を手がけてきた歴史を持ち、世界各地で運営を積み重ねることで、この分野の先行者となりました。

日本では、上下水道を自治体が直接運営してきたため、民間が運営を担う経験の蓄積が限られてきました。施設の運営権を長期で民間に委ねるコンセッションも、宮城県のみやぎ型など一部の例にとどまります。このため、運営のノウハウでは海外勢が先行しているのが実情です。

製品・技術では日本勢が世界に通用する

一方、製品・技術では、日本勢が世界に通用します。とくに逆浸透膜などの分離膜は、膜の孔の細かさを精密に制御する高度な素材技術が必要で、東レをはじめとする日本の化学メーカーが、長年の開発で高い競争力を築いてきました。装置や薬品でも、栗田工業やオルガノが、工場や電子産業向けの水処理で世界に事業を広げています。

この結果、日本勢は「運営で世界を取る」のではなく、「世界の水事業に使われる製品・技術で応える」という役割で強みを発揮しています。国内で培った技術を、海外のプラント向けの製品として展開する構図です。海外勢が運営するプラントに、日本勢が膜や装置を供給するという、役割の分担も成り立っています。

運営への参画を模索する動きもある

もっとも、日本勢が運営にまったく関わらないわけではありません。三菱商事系の水ingのように、上下水道の運営や維持管理、官民連携 (PPP) に取り組む事業者もあり、国内で培った運営の経験を海外で生かそうとする動きもあります。

ただし、海外の上下水道の運営は、各国の制度や事業者との関係が国ごとに異なり、参入は容易ではありません。日本勢にとっては、製品・技術という強みを軸にしつつ、運営やサービスの領域にどこまで踏み込めるかが、海外展開を広げるうえでの課題となっています。

日本勢はどこで海外展開しているのか

膜は中東などの海水淡水化で存在感

日本勢の海外展開で、まず存在感を示すのが分離膜です。水不足に悩む中東や北アフリカ、豪州などでは、海水を真水に変える海水淡水化のプラントの建設が続いており、そこで使われる逆浸透 (RO) 膜を、東レなどの日本メーカーが供給しています。膜は一度採用されると交換需要が長く続くため、実績を積んだ日本メーカーには継続的な需要が見込まれます。

国内は淡水資源が比較的豊富で海水淡水化の規模が限られる一方、日本メーカーの膜は、むしろ海外の大型プラントで多く使われています。膜は一度採用されると交換需要が長く続くため、実績を積んだ日本メーカーには、プラントが増えるほど継続的な需要が積み上がります。

半導体向けの超純水はアジア・北米で伸びる

もう一つの大きな海外展開が、半導体などの電子産業向けの超純水です。半導体の生産設備は、台湾・韓国・米国・中国などに広がっており、そこで使う大量の超純水の装置やサービスの需要を、日本勢が取り込んでいます。

この分野で海外の比重が高いのが、栗田工業 (海外売上比率51.9%) と、超純水装置に特化した野村マイクロ・サイエンス (約70%) です。両社とも、世界的な半導体の生産設備の投資を背景に、アジアや北米で事業を伸ばしています。上下水道が各国の公共インフラで海外展開が難しいのに対し、産業向けの水処理は、顧客である製造業の海外進出に合わせて広げやすいという特徴があります。

主要論点

世界の水ビジネス市場は、なぜ拡大するのか?

世界の水ビジネス市場が拡大するのは、水の需要が世界的に高まっているからです。経済産業省の調査では、世界の水ビジネス市場は2019年の71.9兆円から、2025年には約92.4兆円、2030年には110兆円を超える規模へ拡大すると見込まれています。

背景の一つは、新興国の都市化・工業化です。アジアやアフリカなどで、人口が都市に集まり工場が増えるにつれ、上下水道の整備や工業用水の需要が高まります。もう一つは、水不足と水の再利用です。気候変動や人口増で水資源が逼迫し、海水淡水化や、排水を処理して再び使う動きが世界的に広がっています。

先進国では上下水道の更新需要が、新興国では新規の整備需要が、それぞれ市場を支えています。地域別では、北米・欧州・中国の上位3地域で世界のおよそ7割を占めますが、今後は新興国の伸びが市場の成長をけん引するとみられます。

なぜ日本勢は運営でなく製品・技術で勝負するのか?

日本勢が運営でなく製品・技術で勝負するのは、それぞれの強みと歴史の違いによります。上下水道の運営を長期で受託するビジネスは、資金の調達力や、多くの施設を運営してきた実績、行政との交渉力が求められます。フランスのヴェオリアやスエズは、19世紀から水道事業を手がけ、世界各地で運営を積み重ねてきた先行者です。

日本では、上下水道を自治体が直接運営してきたため、民間が運営を担う経験の蓄積が限られてきました。一方で、日本の化学メーカーや水処理企業は、逆浸透膜などの素材技術や、装置・薬品の製品で、長年にわたり高い競争力を築いてきました。

この結果、日本勢は、世界の水事業に使われる製品・技術で応えるという役割で強みを発揮しています。海外勢が運営するプラントに膜や装置を供給する、という分担も成り立っており、運営で規模を追うより、製品で世界の需要を捉える戦略が合理的だと言えます。

世界92.4兆円と国内の数字は、どう違うのか?

世界の水ビジネス市場92.4兆円と、国内の水処理の数字は、対象とする地域も範囲もまったく異なります。世界市場は、世界全体の水に関わる事業 (上下水道の整備・運営、工業用水、海水淡水化、装置・薬品など) をまとめた規模です。

一方、日本国内の水処理装置の受注額 (2024年度2,505億円) は、国内で受けた装置の注文の金額にすぎず、対象が装置に限られ、地域も日本国内だけです。国内の上下水道の規模や、水処理膜の市場も、それぞれ別の範囲を対象としています。

これらは、単純に足し合わせたり、大小を比べたりできる数字ではありません。世界の92.4兆円は、日本勢にとっての事業機会の広がりを示すものとして捉えるのが適切です。数字を扱うときは、どの地域の、どの範囲を対象にしているのかを、そのつど確かめる必要があります。

中期見通し

近未来1-2年

日本勢の海外展開は、半導体向けの超純水と、膜の輸出が引き続き柱となります。台湾・米国・日本などでの半導体工場の新設・増設に合わせ、栗田工業や野村マイクロ・サイエンスなどが超純水の設備を供給します。中東などの海水淡水化プラント向けの膜の需要も、既存プラントの交換需要とあわせて続くとみられます。

中期3-5年

中期では、新興国の需要の取り込みが課題となります。アジアやアフリカ、中南米で、都市化・工業化に伴う上下水道や工業用水の整備が進みます。ただし、これらの市場では価格競争も激しく、中国などの新興メーカーとの競争も強まります。日本勢は、性能や信頼性、システムの提案力といった付加価値で、どこまで市場を取れるかが問われます。

長期5-10年

長期では、製品供給から、運営・サービスへ踏み込めるかが焦点となります。膜や装置を売るだけでなく、施設の運転・維持管理や、水の再利用を含めたソリューションを提供できれば、事業の幅が広がります。海外の水メジャーが運営で築いた地位に対し、日本勢が製品・技術を軸にしつつ、運営やデジタル技術を組み合わせて独自の立ち位置を築けるかが、長期の課題です。

よくある質問

世界の水ビジネス市場の規模はどれくらいですか?
経済産業省の調査によると、世界の水ビジネス市場は2019年の71.9兆円から、2025年には約92.4兆円、2030年には110兆円を超える規模へ拡大すると見込まれています。上下水道の整備・運営、工業用水、海水淡水化、水処理の装置・薬品まで、水に関わる幅広い事業を含む世界全体の数字です。地域別 (2019年時点) では、北米・欧州・中国の上位3地域で世界のおよそ7割を占めます。
水メジャーとは何ですか?
水メジャーは、上下水道などの施設の運営を、自治体などから長期で受託する世界的な大企業です。フランスのヴェオリアやスエズが代表格で、料金の徴収から施設の運転・維持管理までを一括して担う事業を、世界各地で展開しています。ヴェオリアは2021年にスエズの買収で合意し (買収総額約3.4兆円)、2022年に主要事業を統合して、水・環境の分野で世界最大級の企業となりました。
日本の水処理企業は海外でどう戦っているのですか?
日本勢は、水事業の運営ではなく、技術・製品で海外展開しています。逆浸透膜などの分離膜では東レなどが中東の海水淡水化プラントに膜を供給し、半導体向けの超純水では栗田工業や野村マイクロ・サイエンスがアジア・北米で事業を広げています。運営で先行する海外の水メジャーに対し、日本勢は世界の水事業に使われる製品・技術で応える、という役割の違いがあります。
なぜ日本勢は上下水道の運営で海外に出にくいのですか?
上下水道の運営は、資金の調達力や、多くの施設を運営してきた実績、行政との交渉力が求められ、19世紀から水道事業を手がけてきたヴェオリアやスエズが先行しているためです。日本では上下水道を自治体が直接運営してきたため、民間が運営を担う経験の蓄積が限られてきました。加えて、海外の上下水道は各国の制度が異なり、参入が容易でないことも、日本勢が運営で海外に出にくい理由です。
世界市場の92.4兆円と、国内の受注額を比べてよいですか?
比べられません。世界の水ビジネス市場92.4兆円は、世界全体の水に関わる事業をまとめた数字で、国内の水処理装置の受注額 (2024年度2,505億円) は、日本国内で受けた装置の注文の金額です。対象とする地域も、含まれる事業の範囲も異なるため、足し合わせたり大小を比べたりすることはできません。世界市場の大きさは、日本勢にとっての事業機会の広がりを示すものとして捉えるのが適切です。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
    経済産業省 水ビジネス関連調査 (世界の水ビジネス市場)
  2. 2.
    ヴェオリア/スエズ (水メジャー) 関連公表
  3. 3.
    各社 有価証券報告書 (EDINET)
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