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洋上風力の現状と公募|事業者選定の仕組みと三菱商事の撤退【2026年版】

洋上風力は日本の脱炭素の柱と位置づけられ、2030年に1,000万kW、2040年に3,000〜4,500万kWの案件形成が目標に掲げられています。ただしこれは運転開始量ではなく、国の認定を受けた案件形成の目標で、実際の洋上の累積導入量は約253.4MWにとどまります。再エネ海域利用法に基づく公募は第3ラウンドまで進みましたが、第1ラウンドを落札した三菱商事グループが2025年8月に全案件の撤退を表明するなど、事業環境の厳しさも表面化しています。

洋上の累積導入量(2024年末)
253.4MW
着床式248.4MW・浮体式5.0MW、全体の約4%
出典: 日本風力発電協会(JWPA)
2030年の目標
1,000万kW
=10ギガワット。案件形成の目標(運転開始量ではない)
出典: 洋上風力産業ビジョン(官民協議会、2020年)
2040年の目標
3,000〜4,500万kW
浮体式を含む案件形成の目標
出典: 洋上風力産業ビジョン(官民協議会、2020年)
事業者が選定された海域
9海域
第1〜第3ラウンドの合計(3+4+2)
出典: 経済産業省・国土交通省 公募結果

洋上風力は、どんな仕組みで進むのか

再エネ海域利用法と促進区域

日本の一般海域で大規模な洋上風力を進める枠組みが、2019年に施行された再エネ海域利用法です。国は、風況・水深・港湾・系統(送電網)の条件が整い、地元の合意が得られる見込みのある海域を段階的に評価し、「有望な区域」から「促進区域」へと指定します。促進区域に指定されると、その海域で発電事業を行う事業者の公募が始まります。

公募で事業者を選び、最長30年占用

促進区域では、発電事業を行いたい事業者が計画と価格を提示して応札します。国は価格や事業の実現性などを審査し、選定事業者を1者に決めます。選ばれた事業者は、最長30年にわたって海域を占用でき、風車の建設から運営までを担います。発電した電力は、固定価格買取制度(FIT)や、市場価格に補助を上乗せするFIP制度で買い取られます。

商社・電力が発電事業者、風車は海外メーカー

公募に参加するのは、商社や電力会社を中心とする企業連合です。JERA・三井物産・住友商事・伊藤忠・J-POWERなどが、海外の再エネ事業者や地元の電力会社と組んで応札しています。採用される風車はGE・ヴェスタス・シーメンスガメサなどの海外メーカー製で、建設や基礎工事、専用作業船(SEP船)などを日本のゼネコンや部材メーカーが担う構造です。

再エネ海域利用法に基づく公募ラウンドの結果

第1〜第3ラウンドの対象海域・選定事業者・特徴(経済産業省・国土交通省の公募結果に基づく)
第1ラウンド(2021年結果)
対象海域
秋田(由利本荘・能代等)・千葉(銚子)の3海域
選定された事業者
三菱商事グループが3海域すべて落札
公募の特徴
低い価格で落札したが、2025年8月に全案件の撤退を表明
第2ラウンド(2023〜2024年結果)
対象海域
秋田(八峰能代・男鹿潟上秋田)・新潟(村上胎内)・長崎(西海江島)の4海域
選定された事業者
JERA・三井物産・住友商事などの企業連合(海域ごとに別)
公募の特徴
価格だけでなく運転開始の時期を重視する方式に見直し
第3ラウンド(2024年結果)
対象海域
青森(日本海南側)・山形(遊佐)の2海域
選定された事業者
JERA系・丸紅系の企業連合
公募の特徴
価格の評価点が各社とも満点で並び、事業の実現性が決め手に
読み解き

再エネ海域利用法に基づく公募は、これまで3回(3ラウンド)実施されました。第1ラウンド(2021年結果)は三菱商事グループが3海域を総取りしましたが、その後撤退しています。第2ラウンド(2023〜2024年結果)は4海域で別々の企業連合が選ばれ、計約180万kWの規模になりました。第3ラウンド(2024年結果)は青森・山形の2海域で、いずれも15MW級の大型風車を採用し、2030年の運転開始を目指しています。

ラウンドを追うごとに、審査のルールが変わってきました。第1ラウンドは価格の比重が大きく、低い価格を提示した事業者が有利でしたが、それが後の採算悪化につながったとされます。第2ラウンド以降は、価格だけでなく運転開始の時期や事業の実現性を重視する方式へと見直されました。第3ラウンドでは各社の価格の評価点が満点で並んだため、事業を実現できるかどうかが決め手になりました。

三菱商事の撤退は、何を意味するのか

低い価格で総取りした第1ラウンド

第1ラウンド(2021年結果)では、三菱商事(風車メーカーの三菱重工とは別の会社)を中心とする企業連合が、秋田県由利本荘市沖・能代市等沖・千葉県銚子市沖の3海域すべてを落札しました。3海域の合計は約174万kW(約1.7ギガワット)で、2030年の目標10ギガワットの6分の1強に相当する規模です。他社を大きく下回る低い価格(1キロワット時あたり11〜16円台)を提示したことが決め手で、当時は「三菱商事の総取り」として大きな話題になりました。

資材高騰で採算が悪化、2025年に撤退

しかしその後、世界的な資材価格の高騰や金利の上昇で、洋上風力の建設コストが大きく膨らみました。低い価格で落札していたことがコスト上昇局面で重荷となり、三菱商事は採算の見通しが立たないと判断して、2025年8月に3案件すべての開発中止を表明しました。日本の洋上風力にとって最大級の逆風事例です。

公募制度の見直しへ

この撤退を受けて、国は公募制度の見直しを進めています。価格の低さだけを競わせる方式を改め、事業を最後までやり遂げられるか(完遂性)をより重視する新たな制度が検討されています。すでに第2ラウンド以降は運転開始時期や実現性を重視する方向へ動いており、第1ラウンドの教訓を制度に反映させる流れが続いています。

主要論点

2030年・2040年の目標と現実には、どれくらい差があるのか?

政府は2030年に1,000万kW(10ギガワット)、2040年に3,000〜4,500万kW(30〜45ギガワット)の案件形成を目標に掲げています。一方、実際に運転している洋上風力の累積は約253.4MW(0.25ギガワット程度)で、目標との差は非常に大きいのが現状です。

この差の大きさは、目標が「案件形成(国が事業を認定した段階)」の量であって、運転開始量ではないことに注意が必要です。とはいえ、公募・建設・稼働には長い時間がかかり、2025年には新たに商業運転を始めた洋上風力がありませんでした。目標の達成には、公募で選ばれた案件が計画どおりに建設・稼働へ進むことが前提になります。

目標を掲げること自体は、部材や工事、人材への投資を促す効果があります。ただし、三菱商事の撤退が示すように、掲げた目標と足元の事業採算の間には大きな隔たりがあり、目標をどう現実の運転開始につなげるかが問われています。

三菱商事の撤退から、何を学ぶべきか?

第1ラウンドで三菱商事グループが提示した低い価格は、当時は「洋上風力のコストを一気に下げる」と歓迎されました。しかし、その後の資材高騰でコストの前提が崩れ、低い価格が重荷となって撤退に至りました。長期の大型プロジェクトで、低い価格を約束することのリスクが表面化した事例です。

教訓は制度に反映されつつあります。第2ラウンド以降は、価格だけで競わせるのではなく、運転開始の時期や事業の実現性を重視する方式に変わり、さらに事業を最後までやり遂げられるかを問う新制度も検討されています。価格の安さと、事業の確実性のバランスをどう取るかが論点です。

この事例は、日本の洋上風力が「政策の目標は野心的だが、足元の事業採算はまだ確立していない」段階にあることを示しています。事業者が安心して長期投資できる制度設計と、コスト変動をどう吸収するかが、今後の普及を左右します。

着床式から浮体式へ、日本の洋上風力はどう広がるのか?

現在導入されている洋上風力の多くは、海底に基礎を固定する着床式(約248.4MW)です。着床式は水深の浅い海域に向きますが、遠浅の海が少ない日本では設置できる場所が限られます。

そこで期待されるのが、風車を海に浮かべる浮体式です。浮体式は水深の深い海域でも設置でき、日本の広い排他的経済水域(EEZ)を活用できる可能性があります。ただし現状の導入量は約5.0MWと実証の段階で、コストや技術、係留の方法などに課題が残ります。

国は浮体式の産業戦略づくりを進めており、2040年の目標にも浮体式が含まれています。着床式で経験を積みながら、浮体式の実用化とコスト低減をどこまで進められるかが、日本の洋上風力の伸びしろを決めます。有望な区域は秋田市沖や福岡県響灘沖などが加わり、対象海域は広がりつつあります。

中期見通し

近未来1-2年

公募制度の見直しが焦点です。三菱商事の撤退を受け、事業を最後までやり遂げられるかを重視する新たな公募制度が検討されており、次のラウンドのルールが固まります。第2・第3ラウンドで選ばれた案件は、環境アセスメントや設計を進める段階に入ります。

中期3-5年

第2・第3ラウンドで選ばれた案件が、建設・稼働へ向かう段階に入ります。2028〜2030年にかけて運転開始を予定する海域が続き、順調に進めば洋上の導入量が本格的に立ち上がります。一方、資材価格や金利の動向次第で、計画の遅れや見直しが生じる可能性もあります。

長期5-10年

2040年の目標達成に向けて、浮体式の実用化と送電網の整備が鍵になります。日本の広い海域を活用できる浮体式をどこまでコストを下げて普及させられるか、また適地と需要地を結ぶ送電をどう整えるかが、長期の洋上風力の規模を左右します。

よくある質問

洋上風力の導入量はどれくらいですか?
日本の洋上風力の累積導入量は約253.4MW(2024年末、着床式約248.4MW・浮体式約5.0MW)で、風力発電全体の約4%にとどまります。政府は2030年に1,000万kW、2040年に3,000〜4,500万kWの案件形成を目標に掲げていますが、これは運転開始量ではなく国の認定を受けた案件形成の目標です。
洋上風力の公募(ラウンド)とは何ですか?
再エネ海域利用法に基づき、国が有望な海域を「促進区域」に指定し、そこで発電事業を行う事業者を公募で選ぶ仕組みです。選ばれた事業者は最長30年にわたって海域を占用できます。これまで第1〜第3ラウンドが実施され、計9海域で事業者が選ばれました。
三菱商事の洋上風力撤退とは何ですか?
第1ラウンド(2021年結果)で三菱商事グループが秋田県由利本荘市沖・能代市等沖・千葉県銚子市沖の3海域すべてを低い価格で落札しましたが、その後の資材高騰で採算が悪化し、2025年8月に全3案件の開発中止を表明しました。日本の洋上風力にとって最大級の逆風事例で、公募制度の見直しのきっかけにもなっています。
着床式と浮体式は何が違いますか?
着床式は海底に基礎を固定する方式で、水深の浅い海域に向きます。浮体式は風車を海に浮かべる方式で、水深の深い海域でも設置できます。日本の洋上風力は現在ほとんどが着床式(約248.4MW)で、浮体式は約5.0MWと実証の段階です。遠浅の海が少ない日本では、将来は浮体式が鍵になるとされています。
洋上風力の事業者はどんな会社ですか?
公募に参加するのは、商社や電力会社を中心とする企業連合です。JERA・三井物産・住友商事・伊藤忠・J-POWER・丸紅などが、海外の再エネ事業者や地元の電力会社と組んで応札しています。風車本体は海外メーカー製で、建設や基礎工事、専用作業船などは日本のゼネコン・部材メーカーが担います。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
    経済産業省・国土交通省 洋上風力ワーキンググループ / 公募結果
  2. 2.
    洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)」(2020年)
  3. 3.
    一般社団法人 日本風力発電協会(JWPA)「日本の風力発電 累積導入量」
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