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海洋土木と洋上風力|港湾・基礎工事とマリコンの役割【2026年版】

海洋土木(マリコン)は、港湾・浚渫(しゅんせつ=水底の土砂をさらう工事)・地盤改良など、海や水辺のインフラを専門に手がける建設分野です。公共の港湾整備が需要の柱ですが、近年は洋上風力発電の基礎工事や風車の据付という新たな成長領域が加わりました。海洋土木の守備範囲、なぜ洋上風力が成長領域なのか、それを支える基地港湾やSEP船、公募ラウンドでのマリコン・ゼネコンの関与まで、土木・工事の視点で整理します。

基地港湾(2024年時点)
7
秋田・能代・鹿島・北九州・新潟・青森・酒田。最大30年の長期貸付制度
出典: 国土交通省 港湾局(洋上風力発電)
港湾整備事業費(令和7年度・国費)
2,456億円
港湾整備全般(防災・減災等を含む)。洋上風力専用ではない
出典: 国土交通省 令和7年度 港湾局関係予算決定概要
SEP船(自己昇降式作業船)
4
CP-16001・BLUE WIND・CP-8001・柏鶴 など主要な保有・共同保有船
出典: 各社IR・業界紙
洋上風力 案件形成目標(2040年)
30〜45GW
政府目標(発電所を建てる計画を決める目標、発電容量ベース)。2030年は10GW
出典: 資源エネルギー庁

海洋土木(マリコン)とは、どんな仕事なのか

海と水辺のインフラを担う専業

海洋土木は、港湾・海岸・浚渫・埋立・地盤改良など、海や水辺の土木工事を専門とする建設分野で、これを手がける会社をマリコン(マリンコントラクター)と呼びます。岸壁や防波堤の築造、航路を確保するための浚渫(しゅんせつ=水底の土砂をさらう工事)、軟らかい海底地盤を締め固める地盤改良などが中核で、五洋建設・東亜建設工業・東洋建設・若築建設などが代表的な担い手です。

公共の港湾整備が需要の柱

マリコンの需要は、発注の多くを公共が占めます。国の港湾整備事業費は令和7年度で国費約2,456億円で、これは防災・減災や国際競争力の強化を含む港湾整備全般の予算です。国土強靱化に伴う港湾の耐震・津波対策、老朽化した港湾施設の更新などが、安定した工事需要を生んでいます。海洋土木は、こうした公共インフラの整備を海の側で支える分野です。

専用の作業船と海上施工の技術

海の上での工事は、陸上とは異なる技術と設備を必要とします。マリコンは、起重機船(クレーンを載せた作業船)や浚渫船、地盤改良船といった専用船を持ち、波や潮流のある海上で施工を進めます。この海上施工のノウハウと保有する作業船が、後述する洋上風力の基礎工事・据付という新たな領域につながっています。

なぜ今、洋上風力が海洋土木の成長領域なのか

公共依存の事業構成に加わる新たな柱

マリコンの事業は公共の港湾整備が中心で、国内需要は人口減少やインフラの成熟とともに大きくは伸びにくい構造です。そこに、洋上風力発電という民間発の需要が加わりました。海に風車を据え付ける工事は大規模で、公共依存の事業構成に新たな柱を加える構造的な成長領域として位置づけられています。

海洋土木の技術がそのまま生きる

洋上風力の工事は、海底の地盤を改良し、風車の基礎を据え付け、大型のタワーやブレード(羽根)を海上で組み立てる作業です。これらは、地盤改良・海上施工・大型部材の据付といった海洋土木が長年培ってきた技術がそのまま生きる領域です。国は発電所を建てる計画を決める案件形成の目標として2030年に10GW、2040年に30〜45GW(発電容量ベース)を掲げており、拠点整備と工事の需要が中期的に見込まれています。

担うのは土木・据付の工事

一方で、マリコン・ゼネコンが担うのは、あくまで基礎工事や風車の据付という土木・工事の部分です。発電事業そのものの運営や、風車本体(発電設備)を供給する風車メーカーの競争は、これとは別の領域にあります。土木の視点で見たとき、洋上風力は「誰がどう海に据え付けるか」という施工の問題として現れます。

洋上風力を支える工事とインフラは何か

基地港湾 ── 資機材を積み出す拠点

洋上風力の設備は重量物で大型のため、それを組み立てて海へ積み出す専用の拠点が要ります。国は、重量物に耐える岸壁と広いヤード(資材の仮置き・組立用地)を備えた港を基地港湾として指定し、発電事業者に最大30年という長期で埠頭を貸し付ける制度をつくりました。基地港湾は2024年時点で秋田港・能代港・鹿島港・北九州港などの7港が指定され、その整備自体が港湾土木の仕事です。

SEP船 ── 海上で安定して作業する専用船

海上で風車を据え付けるには、波の影響を受けずに安定して作業できる船が不可欠です。SEP船(自己昇降式作業船=脚を海底に下ろして船体を海面上に持ち上げ、固定して作業する専用船)がそれで、マリコン・ゼネコンが保有・共同保有しています。五洋建設・鹿島建設・寄神建設が共同保有する大型のCP-16001、清水建設の自航式(自力で航行できる)SEP船「BLUE WIND」、五洋建設のCP-8001、大林組・東亜建設工業が共同保有する柏鶴(はくづる)など、国内で4隻程度が主要な稼働・整備船です。1隻あたり数百億円規模の投資を要する設備で、その保有が受注力を左右します。

基礎工法 ── 着床式が中心

風車を海に固定する方法(基礎工法)には、基礎を海底に固定する着床式と、基礎を海に浮かべて係留(つなぎ留めること)する浮体式があります。現在の日本の洋上風力は、比較的浅い海に適した着床式が中心で、鋼管杭を1本打ち込むモノパイルや、鋼材を組んだ骨組みのジャケットといった基礎が用いられます。より深い海に適した浮体式は、大型設備の海上施工などに課題があり、実証と技術基準づくりが進められている段階です。

洋上風力の工事工程と土木(マリコン/ゼネコン)の関与

着床式の洋上風力を例に、工程ごとの内容と、海洋土木の担い手がどこに関与するかを整理(◎中核 / ○関与 / △付帯 / ×別領域)
基地港湾の整備
工程の内容
重量物の積み出し・組立に耐える岸壁・ヤードを整える。設備の大型化で拠点整備が前提になる
土木(マリコン/ゼネコン)の関与
◎ 港湾土木の中核。国が基地港湾を指定し、マリコン・ゼネコンが整備を担う
基礎の製作・輸送
工程の内容
モノパイル(1本の鋼管杭)やジャケット(鋼材を組んだ骨組み)などの基礎構造物を製作し、海上輸送する
土木(マリコン/ゼネコン)の関与
○ 輸送・据付の管理に関与(構造物の製作は鋼構造・重工メーカー)
基礎の据付(海上)
工程の内容
海底の地盤を改良し、基礎構造物を据え付ける。着床式(基礎を海底に固定する方式)が中心
土木(マリコン/ゼネコン)の関与
◎ マリコンの主戦場。SEP船・起重機船と地盤改良の技術を投入する
風車の据付(海上)
工程の内容
タワー・ナセル(発電機を収める部分)・ブレード(羽根)を海上で据え付ける
土木(マリコン/ゼネコン)の関与
◎ SEP船を保有するゼネコン・マリコンが据付を担当する
海底ケーブル・送電
工程の内容
発電した電気を陸上へ送る海底ケーブルを敷設・接続する
土木(マリコン/ゼネコン)の関与
△ 専門の敷設業者・送電事業者が主。土木は付帯工事にとどまる
発電事業・風車の供給
工程の内容
発電事業の運営や、風車本体(発電設備)の供給を行う
土木(マリコン/ゼネコン)の関与
× 発電事業者・風車メーカーの領域で、土木・据付の工事とは別
読み解き

洋上風力の工事は、基地港湾の整備・基礎の据付・風車の据付という海上施工の工程で、海洋土木の担い手が中心的な役割を果たします。とくに海底地盤の改良と基礎・風車の据付は、SEP船と海上施工の技術を持つマリコン・ゼネコンの主戦場です。一方、海底ケーブルの送電は専門の敷設・送電事業者が主で、発電事業の運営や風車本体の供給は発電事業者・風車メーカーの領域にあたります。土木が担うのは、海に据え付ける工事とその拠点となる港湾の整備です。

公募ラウンドで、マリコンやゼネコンはどう関わるのか

段階的に進む公募

日本の洋上風力は、再エネ海域利用法に基づき、区域ごとに発電事業者を公募する方式で進んでいます。これまでに第1〜第3ラウンドが実施され、秋田県沖や千葉県沖、青森県沖・山形県沖などが対象となってきました。公募で選ばれるのは発電事業者ですが、その事業者の下で基礎工事や据付を担うのが、ゼネコン・マリコンです。

基礎・据付を担うゼネコン・マリコン

第1ラウンドでは、三菱商事を中心とする企業連合(発電事業者側で、風車を製造するメーカーとは別の立場)が秋田・千葉の3海域を落札しました。ただしその後、建設費の大幅な高騰などを理由に、この3海域すべてで事業の見直し・撤退が表明され、公募の枠組みも見直されました。大型の洋上工事は工期や採算の変動が大きいことを示す例です。もっとも、基礎の据付や風車の据付といった工事自体は、事業者やラウンドを問わずSEP船を持つゼネコン・マリコンが担う構図に変わりはありません。第3ラウンドでは、青森港・酒田港が建設拠点の基地港湾として位置づけられています。

案件形成と工事のタイムラグ

注意したいのは、公募での事業者選定は案件形成の段階で、実際の運転開始はその数年後という点です。また、大型の海上工事は工期や採算の変動も大きく、SEP船や技能者の確保が受注の鍵になります。東洋建設が海洋土木事業の受注高591億円(2025年3月期)を個別に開示するように、マリコン各社は海洋土木を事業の柱として位置づけ、洋上風力の需要を取り込もうとしています。

主要論点

洋上風力は、本当にマリコンの事業を変える成長領域なのか?

海洋土木の需要は公共の港湾整備が中心で、国内では大きく伸びにくい構造です。そこに加わった洋上風力は、海に風車を据え付ける大規模な工事を伴い、海底の地盤改良や基礎・風車の据付という海洋土木の技術がそのまま生きます。公共依存の事業構成に、民間発の新たな柱を加える構造的な成長領域といえます。

一方で、期待だけで語れない面もあります。公募での事業者選定から運転開始までには数年のタイムラグがあり、工事量は段階的にしか立ち上がりません。大型の海上工事は工期や採算の変動も大きく、SEP船や技能者を確保できるかが受注の鍵です。

したがって、洋上風力は中長期の成長領域である一方、短期の業績を一気に押し上げるものではありません。基地港湾やSEP船といったインフラへの投資を先行させながら、公共の港湾整備という既存の柱と両輪で取り組む構図になっています。

なぜ洋上風力の工事に、基地港湾やSEP船が要るのか?

洋上風力の設備は、タワーやブレードが大型で、基礎も重量物です。これらを組み立てて海へ運び出すには、重量物に耐える岸壁と広いヤードを備えた拠点が要ります。これが基地港湾で、国が指定し、発電事業者に長期で貸し付ける制度がつくられました。拠点の整備自体が港湾土木の仕事です。

海上での据付には、波の影響を受けずに作業できる船が不可欠です。脚を海底に下ろして船体を持ち上げるSEP船がそれで、数百億円規模の投資を要します。マリコン・ゼネコンは、このSEP船を保有・共同保有することで、据付の受注力を確保してきました。

つまり、洋上風力の工事は、船と港というインフラを先に用意した者が担える構造です。基地港湾の整備とSEP船の保有が、そのまま海洋土木各社の競争力につながっています。

洋上風力の拡大に、土木・インフラ面のボトルネックは何か?

第一は、拠点と設備の制約です。基地港湾の数と能力、SEP船の隻数には限りがあり、案件が集中すると据付体制がボトルネックになり得ます。設備の大型化に合わせた港湾や作業船の増強が、導入のペースを左右します。

第二は、担い手の確保です。海上施工は専門性が高く、技能を持つ技術者・作業員の育成が追いつくかが課題です。土木全体で担い手不足が深刻化するなか、洋上風力という新分野でも人材の確保が問われます。

第三は、より深い海への対応です。着床式に適した浅い海の区域は限られ、将来は基礎を海に浮かべる浮体式が視野に入ります。ただし浮体式は大型設備の海上施工などに課題があり、実証と技術基準づくりが進められている段階で、確立した工法として断定できる状況ではありません。

中期見通し

近未来1-2年

第3ラウンドの事業者選定と着工準備が進み、青森港・酒田港などの基地港湾の整備が具体化します。公共の港湾整備事業費が需要を下支えし、マリコン各社は既存の港湾工事と洋上風力の準備を並行して進めます。

中期3-5年

着床式の基礎工事・据付の需要が本格化し、SEP船や技能者の確保が受注の制約になります。基地港湾の整備という公共土木と、洋上風力の据付という民間需要が両輪となり、海洋土木の事業構成に新たな柱が加わっていきます。

長期5-10年

国が掲げる2030年10GW・2040年30〜45GWの案件形成目標に向け、より深い海に適した浮体式への対応が課題になります。浮体式は海上施工などの技術確立が前提で、実証の成否が長期の工事需要を左右します。公共の港湾整備と洋上風力が、海洋土木の中長期の柱となる見通しです。

よくある質問

海洋土木(マリコン)とは何ですか?
海洋土木は、港湾・海岸・浚渫(しゅんせつ)・埋立・地盤改良など、海や水辺の土木工事を専門とする建設分野で、これを手がける会社をマリコン(マリンコントラクター)と呼びます。五洋建設・東亜建設工業・東洋建設・若築建設などが代表的で、専用の作業船と海上施工の技術を持ちます。発注の多くを公共の港湾整備が占め、近年は洋上風力の基礎工事・据付が新たな成長領域になっています。
洋上風力の工事で、土木会社は何を担うのですか?
土木会社(マリコン・ゼネコン)が担うのは、海底の地盤改良、風車の基礎の据付、タワーやブレードの海上据付、そして拠点となる基地港湾の整備です。海上で安定して作業するSEP船と海上施工の技術を持つ会社が中心になります。一方、海底ケーブルの送電は専門の敷設・送電事業者が主で、発電事業の運営や風車本体の供給は発電事業者・風車メーカーの領域です。
SEP船とは何ですか?
SEP船(自己昇降式作業船)は、脚を海底に下ろして船体を海面上に持ち上げ、固定した状態で作業する専用の作業船です。波の影響を受けずに安定して洋上の風車を据え付けられるため、洋上風力の工事に不可欠です。五洋建設・鹿島建設・寄神建設が共同保有するCP-16001や、清水建設の自航式SEP船「BLUE WIND」などがあり、数百億円規模の投資を要します。
基地港湾とは何ですか?
基地港湾は、洋上風力の重量物である資機材を組み立てて海へ積み出すための拠点となる港湾です。重量物に耐える岸壁と広いヤードが必要で、国土交通大臣が指定し、発電事業者に最大30年という長期で埠頭を貸し付ける制度がつくられました。2024年時点で、秋田・能代・鹿島・北九州・新潟・青森・酒田の7港が指定されています。
着床式と浮体式はどう違うのですか?
着床式は、風車の基礎を海底に固定する方式で、比較的浅い海に適します。鋼管杭を打ち込むモノパイルや、鋼材を組んだジャケットなどの基礎が用いられ、現在の日本の洋上風力の中心です。浮体式は、基礎を海に浮かべて係留する方式で、より深い海に適しますが、大型設備の海上施工などに課題があり、実証と技術基準づくりが進められている段階です。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
    国土交通省 令和7年度 港湾局関係予算決定概要(総括表)
  2. 2.
    国土交通省 港湾局「港湾:洋上風力発電」/基地港湾の指定に関する報道発表
  3. 3.
    経済産業省・資源エネルギー庁 再エネ海域利用法に基づく公募(第1〜第3ラウンド)/案件形成目標
  4. 4.
    各社IR・業界紙(SEP船、海洋土木事業受注)
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