最終更新
STAT DETAIL · INTEREST RATE BUSINESS

銀行業 金利上昇局面のビジネスモデル|マイナス金利解除後の預貸金利ざや拡大とマネーストック動向【2026年版】

日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、その後2024年7月に0.25%、2025年1月に0.5%へ政策金利を段階的に引き上げました。これに伴い全国銀行92行連結の資金運用利回り簡易代理は、FY2020の1.60%からFY2024の3.84%へ+2.2pt拡大し、資金運用収益は9.6兆円から27.0兆円へ伸長しました。本ページでは利上げ局面の段階整理とマネーストック動向、金利環境見通しを整理します。

直近 政策金利
0.5%
2025年1月以降、2024年3月マイナス金利解除を起点とした段階利上げ (§3 levels-tableで3ステージ整理)
出典: 日本銀行 金融政策決定会合 公表値 (2025年1月)
資金運用利回りFY2024
3.84%
資金運用収益27.0兆 ÷ 貸出残703兆 × 100、FY2020の1.60%から+2.2pt、海外連結+有価証券利息を含む包括的利回り、収益構造ページの預貸金利ざやとは別物
出典: 全国銀行協会 全国銀行 総合連結財務諸表 (FY2020-2024、92行連結) 資金運用収益・貸出残
M3マネーストック
1622兆円
2026-02月中平均残高、M2 1275兆と並存、家計+法人の通貨保有量
出典: 日本銀行 マネーストック統計M3月中平均残高 (2026年2月)
資金運用収益FY2024
27.0兆円
FY2020の9.6兆から+17.3兆、政策金利上昇+海外金利高+貸出規模拡大の複合効果
出典: 全国銀行協会 全国銀行 総合連結財務諸表 (FY2020-2024、92行連結)

金利上昇局面の3ステージ・政策金利・銀行業績への影響

2016年マイナス金利導入から2025年0.5%への段階利上げまでの9年間
区分名称時期ステージ定義
マイナス金利期2016年2月-2024年3月資金運用利回り1.60% (FY2020)政策金利-0.1%で、銀行が日銀当座預金の超過準備に対しマイナス金利を負担する異例の金融政策期です。収益構造ページで詳述した預貸金利ざやは縮小圧力下にあり、銀行業界は手数料ビジネスと海外展開で収益を補完していました。FY2020の資金運用利回り簡易代理1.60%は歴史的低水準です。
マイナス金利解除局面2024年3月-2024年7月政策金利0.0-0.1% (2024年3-7月)期待先行で銀行株が上昇しつつ、実態の利ざやはまだ大きく動いていない過渡期です。日銀が2024年3月に約8年ぶりにマイナス金利を解除し、政策金利を-0.1%から0.0-0.1%に引き上げました。市場は「政策正常化」と受け止め、銀行業の利ざや反転期待が高まる転換点に。銀行間の資金貸借量である短期金融市場の流動性も正常化に向かい、ビジネスモデルの転換が始まる局面です。
段階利上げ期2024年7月-資金運用利回り3.84% (FY2024)2024年7月に政策金利0.25%、2025年1月に0.5%へ段階利上げが進み、資金運用利回りが本格的に拡大しました。普通預金等の要求払預金 (利上げ反映が遅い区分) のリプライス速度が緩いため、銀行が利ざやを享受する局面が継続しています。一方、定期預金金利も段階的に上昇し、預金者への還元が進んでいます。
読み解き

3ステージを通じて、銀行業は「収益1.5-2倍」の拡大局面を経験しました。マイナス金利期は手数料と海外で収益を維持、解除局面で期待先行の株価上昇、段階利上げ期で実態の利ざや拡大が業績に反映される段階的進化です。収益構造ページで示した経常利益2.9兆から7.1兆 (約2.5倍) への拡大は、このステージⅢで本格化しました。

各ステージで銀行業界の競争軸も変化します。ステージⅠはメガバンク比較ページのOHR (経費率) で詳述した経費効率と海外展開、ステージⅡは政策金利動向への金利感応度 (政策金利変動に対する銀行純利息収益の変化額で、メガバンク3グループ各社がIRRBBとしてIR開示する経営指標)、ステージⅢは預金金利戦略と貸出シェア争奪、と段階的に焦点が移ります。

全国銀行92行連結 資金運用利回り簡易代理5年推移 (FY2020-FY2024)

資金運用収益 ÷ 貸出残 × 100、収益構造ページの預貸金利ざやとは集計対象・分母が異なる包括的利回り指標
単位: %
0.01.02.03.04.01.6201.6212.6223.6233.824
出典: 全国銀行協会 全国銀行 総合連結財務諸表 (FY2020-2024、92行連結) 資金運用収益 ÷ 貸出残 × 100、分子は貸出利息+有価証券利息+コール利息等の包括値
年度20202021202220232024
%1.601.562.583.603.84
前年比
読み解き

資金運用利回り簡易代理はFY2020の1.60%からFY2024の3.84%へ+2.2pt拡大しました。これは指標値が約2.4倍化したことを意味します。集計対象差の注記として、本指標は資金運用収益 (貸出利息+有価証券利息+コール利息等の包括値) を貸出残のみで割った簡易計算で、収益構造ページで詳述した「預貸金利ざや (貸出金利回りと預金金利回りの差)」とは集計対象・分母が異なります。実務上の国内貸出単体利回り (FY2024で約1-1.5%) より高めの数値となるのは、海外連結子会社と有価証券寄与を含むためです。

拡大は段階的で、FY2020の1.60%からFY2021の1.56%は横ばい、FY2022の2.58%で2%台へ反転、FY2023の3.60%で3%台、FY2024の3.84%で4%直下まで到達しました。FY2022の拡大は複合要因による結果で、米国FFレート上昇 (2022年3月の0.25%から2023年7月の5.25%) による外貨建て利息収入の伸び、円安進行 (1ドル110円から140円台) による外貨建て利息の円換算膨張、コロナ後の貸出規模拡大、有価証券売却益が同時発生しました。FY2024の更なる拡大は2024年3月解除以降の段階利上げによる国内政策金利上昇が加わり、2段階の拡大局面を確認できます。

マネーストックM3 13か月推移 (2025年2月-2026年2月)

中央銀行と民間部門が保有する通貨の総量、月中平均残高
単位: 兆円
0.00500.01000.01500.02000.01603.425021603.01614.41614.425051615.81619.01620.11619.21618.325101624.41627.41627.21622.02602
出典: 日本銀行 マネーストック統計M3月中平均残高 (2025年2月-2026年2月)
年度202502202503202504202505202506202507202508202509202510202511202512202601202602
兆円1603.401,6031614.401614.401615.801,6191620.101619.201618.301624.401627.401627.201,622
前年比
読み解き

銀行業の収益にとって、M3マネーストックは「銀行が利用可能な低コスト調達源の規模」を示す指標です。普通預金中心のM3が高水準なら、利上げ局面で銀行は預金金利を抑制しながら運用利息を享受でき、ステージⅢの利ざや拡大効果が大きくなります。

M3 (M2+信金信組・農協・ゆうちょ等の預金合計) は直近13か月で1603兆から1622兆と高水準を維持しています。月次の振れ幅は±10-20兆程度に収まり、金利上昇局面下でも家計・法人の通貨保有意欲が依然強い構造を示しています。M3とM2 1275兆の差は約347兆で、これが信金信組・農協・ゆうちょ等の預金規模合計の概算 (個人預金限定ではない) です。広義流動性 (M3+投信・国債等で、家計と法人の流動的金融資産の総量) は2264兆規模で、銀行預金以外への資金シフトも一定規模で並存しています。

このグラフに関連するトピック

全国銀行92行連結 経常収益・経常費用5年推移 (FY2020-FY2024)

収益・費用・利益の関係、政策金利上昇局面での利益拡大の構造
単位: 兆円
経常費用経常利益
0.0012.525.037.550.018.52019.72127.82237.02340.224
出典: 全国銀行協会 全国銀行 総合連結財務諸表 (FY2020-2024、92行連結) 経常収益・経常費用・経常利益
年度20202021202220232024
経常費用兆円15.6015.7023.7031.7033.10
経常利益兆円2.9044.105.307.10
合計(兆円18.5019.7027.803740.20
前年比+6.5%+41.1%+33.1%+8.6%
読み解き

経常収益はFY2020の18.5兆からFY2024の40.2兆 (約2.2倍) と急拡大し、一方で経常費用も15.6から33.1兆 (約2.1倍) と並行拡大しています。経常利益 (収益から費用を控除) は2.9から7.1兆と約2.4倍に拡大しました。

費用の急拡大は3要因によります。①預金金利上昇に伴う預金者への利息支払い増の支払利息、②収益拡大ペースほどではないが一部上昇するG&A費用、③売却益と評価損が振れる有価証券関係損益、です。FY2020からFY2024で収益が約22兆増、費用が約18兆増、差し引き経常利益は約4.2兆増の構造で、利上げ局面下では「収益と費用が同時拡大し、差分で利益増」が銀行業の基本パターンです。

このグラフに関連するトピック

主要論点

資金運用収益拡大の要因分解はどう整理されるか?

収益構造ページで示した資金運用収益のFY2020の9.6兆からFY2024の27.0兆への+17.3兆拡大は、3要因の並行効果と整理できます。本ページでは厳密な按分でなく、各要因の規模感を概念整理として提示します (各要因の正確な分解は本ページの射程外です)。

分解の枠組みは3つです。①2024年3月のマイナス金利解除以降、2024年7月0.25%・2025年1月0.5%への段階利上げで預貸金利ざやが回復した国内政策金利上昇、②米国FFレート0.25%から5.25%への利上げで外貨建て利息収入が伸長し、円安 (110円から140円台) で円換算膨張も寄与した海外金利上昇と円安進行、③連結貸出残高601から703兆 (+102兆、+17%) で利回り据置きでも規模効果で利息増となる貸出規模拡大、です。

業界戦略への示唆: タイムラインで見ると、FY2022からFY2023の利息収入急増 (9.7から24.6兆) は海外金利上昇・円安・規模拡大が同時に効いた局面、FY2023からFY2024 (24.6から27.0兆) は国内利上げの効果が加わった局面、と段階的な進行が読み取れます。「マイナス金利解除が銀行収益を倍化させた」という単純化は不正確で、海外金利環境と為替動向の重要性を見落とさない理解が必要です。中期的にも米国景気減速や海外金利反転の影響度の方が、国内政策金利動向よりも大きい局面が続く可能性が指摘されます。

リプライス速度差で収益効率はどう変わるか?

銀行業の収益効率は預金金利と貸出金利のリプライス (再設定) 速度の差で決まります。要求払預金は契約金利が低くリプライス速度が遅く、定期預金は満期到来時のリプライス、貸出は変動金利貸出が即時リプライス、固定金利貸出は満期まで遅延します。

速度差の影響は3局面に分けて整理できます。①利上げ局面初期は貸出側のリプライスが先行し、預金側の遅延で利ざやが急拡大、②利上げ局面継続では預金側もリプライス進行で利ざや拡大が鈍化、③利下げ局面では逆に貸出側のリプライス先行で利ざやが縮小、です。本ページの資金運用利回り推移グラフで見えるFY2020からFY2024の+2.2pt拡大は局面①の現象です。

業界戦略への示唆: メガバンク3グループは、政策金利変動に対する銀行純利息収益の変化額である金利感応度をIRRBB (Interest Rate Risk in the Banking Book) としてΔEVE・ΔNIIの形式でIR開示する経営指標として組み込み、銀行が金利リスクをコントロールする経営手法であるALM (Asset Liability Management、資産負債総合管理) でリプライス速度を最適化しています。中期的にはリプライス速度差の収益効果が薄れ、利回りは安定水準に収れんする見通しです。

利上げ局面終了時のシナリオはどうか?

現在の利上げサイクルは2025年1月の政策金利0.5%で一服しており、追加利上げは消費者物価指数の動向と賃金上昇率次第で0.75-1.0%で頭打ちとなる可能性が指摘されます。一方、米国は2025-2026年に景気減速とFed利下げが想定され、海外金利が反転局面に入る可能性があります。

シナリオ別影響は3つです。①国内追加利上げ0.75-1.0%では、資金運用利回りは+0.6pt程度のさらなる拡大余地があり、資金運用収益の追加上乗せが議論される、②米国景気後退局面では海外貸出収益が縮小し、収益構造ページで詳述した与信費用が増加、外貨建て利息収入も縮小、③両者が同時発生すると国内と海外で相殺し、純利息収益はFY2024ピーク水準を維持または微減、と複合シナリオが想定されます。

業界戦略への示唆: 収益構造ページのoutlookで詳述したバーゼルIIIの経済価値ベース評価の導入で含み損益が自己資本に直接反映され、利上げサイクル終了時の有価証券評価損リスクも大きな論点に。各メガバンク3グループは中期経営計画 (2024-2026年度または2025-2027年度) でROE 8-10%を目標としており、利上げサイクル終了後の収益力維持が中期競争軸となります。

中期見通し

近未来1-2年

2026-2027年は政策金利0.5%を起点に追加利上げ議論が続く局面です。日銀は2026年中盤に0.75%への追加利上げを検討する見込みで、銀行業の預貸金利ざや拡大の可能性があります。資金運用収益はFY2024の27.0兆水準からの追加拡大 (各社中期計画と感応度開示参照) 、経常利益は7.1兆水準を維持または微増する見通し。一方、米国Fedの利下げ局面入りで海外金利寄与は縮小し、国内と海外の収益寄与バランスが転換します。

中期3-5年

2028-2030年は利上げサイクル終焉と海外景気変動が業績の振れ要因になる局面です。国内政策金利は0.75-1.0%で頭打ちとなり、預貸金利ざや拡大ペースが鈍化して収益拡大の頭打ちが見えます。米国景気後退局面で海外貸出収益が縮小し、与信費用と有価証券評価損のリスクが表面化、経常利益はFY2024ピーク比で減益圧力に直面し得ます (各社中期計画と感応度開示参照) 。一方、新NISA関連の役務収益拡大が下支えとなり、銀証信一体運営の優位性が顕在化する局面です。

長期5-10年

2030年以降は金利環境の正常化に伴い銀行業の収益構造が転換期を迎える局面です。政策金利が1-2%レンジで安定すると、銀行業は「金利平時の銀行業」として、預貸金利ざや・役務収益・資産運用の3本柱体制が確立します。収益構造ページのoutlookで詳述したバーゼルIII経済価値ベース評価の導入で有価証券含み損益が自己資本に反映、ALM高度化が長期競争軸に。AI・DXによる業務自動化で経費効率が改善し、メガバンク3グループは資産運用立国の中核プレイヤーとして役務収益比率を25-30%へ引き上げる戦略で、ビジネスモデルの質的変化が継続します。

よくある質問

政策金利とは何ですか?
政策金利 (日銀が金融政策決定会合で誘導目標とする無担保コールレート オーバーナイト物、銀行間の翌日物の資金貸借金利) は、中央銀行の金融政策の最も基本的な操作目標です。日銀は2016年2月から2024年3月までマイナス金利政策 (-0.1%) を継続し、2024年3月に約8年ぶりに解除して0.0-0.1%に、2024年7月に0.25%、2025年1月に0.5%へ段階的に引き上げました。この政策金利は預金金利・貸出金利・債券利回り等のあらゆる金利の起点となり、銀行業の収益に直接影響します。
資金運用利回りはなぜ拡大したのですか?
全国銀行92行連結の資金運用利回り簡易代理は、FY2020の1.60%からFY2024の3.84%へ+2.2pt拡大しました (収益構造ページの預貸金利ざやとは集計対象・分母が異なる別指標)。主因は3つあります。①2024年3月のマイナス金利解除と2025年1月への0.5%段階利上げによる国内政策金利上昇、②米国FFレート0.25%から5.25%への上昇と円安進行による外貨建て利息収入の伸長、③国債利回り上昇による有価証券利回り上昇、です。FY2020からFY2024の拡大は段階的で、FY2022からFY2023で海外金利上昇・円安・規模拡大の複合効果が先行し、FY2024で国内利上げが追加された2段階構造です。
マネーストックとは何ですか?
マネーストックは、中央銀行と民間部門が保有する通貨の総量を示す金融マクロ指標で、日銀が月次で集計・公表しています。M1 (現金+預金通貨)、M2 (M1+定期預金等の準通貨)、M3 (M2+信金信組・ゆうちょ等)、広義流動性 (M3+投信・国債等) の階層があり、銀行預金はM2・M3の主要構成要素です。直近2026年2月でM3 1622兆円、M2 1275兆円、広義流動性2264兆規模で、政策金利上昇局面下でも家計・法人の通貨保有意欲は依然強い構造を示しています。
金利感応度とは何ですか?
金利感応度は政策金利変動に対する銀行純利息収益の変化額で、メガバンク3グループ各社がIRRBB (Interest Rate Risk in the Banking Book) としてIR開示する経営指標です。具体的にはΔEVE (経済価値の変動) とΔNII (純利息収益の変動) の2系列で、政策金利+100bpショック時の銀行収益への影響を示します。各社の具体数値はIRRBB開示資料 (Factbookや統合報告書) 参照を推奨し、本ページでは個別数値の転記は省略しました (公表値の検証可能性確保のため)。中期経営計画下では、メガバンク3グループ各社がALMで金利感応度を最適化し、追加利上げ局面での収益上乗せ効果を経営計画に組み込んでいます。
マイナス金利解除は本当に銀行収益拡大の主因ですか?
「マイナス金利解除単独が主因ではない」が正確です。収益構造ページの資金運用収益はFY2020の9.6兆からFY2024の27.0兆へ+17.3兆拡大しましたが、これは3要因の並行効果で説明できます。①2024年3月解除以降の段階利上げによる国内政策金利上昇、②米国FFレート0.25%から5.25%への海外金利上昇と110円から140円台への円安進行、③連結貸出残601から703兆の貸出規模拡大と有価証券利息増、です。タイムラインで見るとマイナス金利解除前のFY2022からFY2023で既に海外要因と規模拡大で大きく伸びており、FY2024で国内利上げが追加された段階的構造です (詳細は§7 args-1参照)。

参考資料 / 一次ソース

  1. 1.
  2. 2.
  3. 3.
  4. 4.
  5. 5.
  6. 6.
📄 資料DL💬 無料相談